若手理学療法士の悩み ~長下肢装具をどう活用すれば良いのか分らない~
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長下肢装具、若手理学療法士、アンケート、教育
若手理学療法士の中で長下肢装具は「難しそう」「どうやって使うのかわからない」「どういう目的で活用すればいいのだろう」と少し触りにくい印象を持っている若手療法士が多くいるのではないでしょうか。筆者も若手の頃は同じく「難しそうだな、自信がないな」と感じてました。しかし今となっては長下肢装具の有効性に気づき、数多くの治療で活用しており、なくてはならない相棒となっています。そこで今回、当院の若手理学療法士が長下肢装具のことをどう思っているのかが気になり、アンケート調査を取ってみようと考えました。
本記事の内容
当院リハビリテーション科の紹介です。当院は埼玉県南地域における中核病院として、第3次救急医療を担う高度救命救急センターとしてICU・CCU等の施設を併設し高度診療機能を有しております。病床数は638床、リハビリテーション科は36名で構成されており、年間約60,000名の症例に対しリハビリテーションを提供しています。当院リハビリテーション科はチーム制を導入しており、疾患別に専門的にリハビリテーションに取り組んでおります。筆者は脳神経班に所属しており、発症当日・翌日からの急性期脳卒中のリハビリテーションに携わってきました。急性期脳卒中のリハビリテーションの目標として、より良い状態での自宅退院・積極的なリハビリテーションが可能な状態で回復期に症例を送ることを意識し、日々のリハビリテーションに励んでおります。当院脳神経班ではベースをしっかり作るという目的で適応する多くの症例に「長下肢装具」を使用したリハビリテーションを導入しています。
若手セラピストは長下肢装具をどう感じているのか?アンケートを取ってみた~当院の実際~
当院脳神経班では多くの対象症例に対して長下肢装具を使用することが多いですが、「長下肢装具の理学療法」を若手セラピストが実際どう感じているのか、現状を知りたいと感じました。そこで今回、長下肢装具を活用した理学療法の印象を当院の若手理学療法士にアンケート方式で実際どう感じているかを調査しました。アンケートの対象は脳神経班に配属された若手理学療法士1年目~3年目の合計6名を対象とし、半年間の在籍を経て実際に長下肢装具の印象をどう感じたかを調査しました。今回の調査で若手療法士が長下肢装具をどう感じているのかを把握し、今後の教育の一助になればと考えております。少数のアンケートであり、また当院内のみの限定的なアンケートになりますので、その点ご了承いただけると幸いです。以下がアンケート結果となります。
アンケート結果の背景とそれに対する対処、教育的解決策を考える
~当院脳神経班での現状と教育体制~
アンケート結果のまとめ
≪ネガティブグループ≫:難しい・対象症例について悩む・介助が大変と感じている
≪ポジティブグループ≫:長下肢装具を効果的と感じている・明確な目標のもと活用できている
ネガティブグループの背景因子は?
①難しい印象がある
→長下肢装具そのものに難しそうなイメージがある。
②対象症例について悩む
→スタンダートな重度の麻痺症例以外で悩む。どこまで活用すればいいか悩む。
③介助が難しい
→経験年数が浅く、介助のコツがわからず介助量が増大してしまい、大変と感じる。
どのように対処・改善すればよいのか
①に対して、できるだけ早期に装具の勉強会を行う(装具の構造、目的、介助)。
②重度麻痺症例において理学療法士ができることは「座位・立位・歩行」といったごく限られた選択肢になるため、長下肢装具がないと立位〜歩行へ移行できないケースでは、そもそも悩みようがない状況になるのだと思います。逆に、短下肢装具でもなんとか立てる、なんとか歩ける、といった“選択肢が増える場面”になると、そこで初めて「どの介入を優先するかで悩む」のかなと感じています。つまり、重症度が高い症例では「できることが少ないから悩まない」のだと思います。歩行の段階で獲得が求められる「立脚中期の構築」「TLAの構築」等の必要な要素がしっかり獲得できているのかを評価し、治療を行うことが大事な要素になると思います。特にこの段階では何を目的に装具を活用するのか、獲得すべき歩行パターンを事前にしっかり伝える必要があります。図1のように長下肢装具を活用することで得られる長期的な効果を論文を用いながら客観的に知ってもらうことも有用と考えます。図1の論文では急性期の段階から長下肢装具を活用することにより、歩行速度・バランス能力・体幹の機能が向上すること、またBarthel Index・Functional Independent Measureといった日常生活動作の点数が向上したと報告されています。
長下肢装具を活用しTLAを意識した練習を行った症例は重心移動が円滑で歩幅も大きく、歩容・歩行速度も良好であります。若手理学療法士が難しいと感じるこの段階は、必要な項目、歩行パターンを知らないこと・理解していないことが難しいと感じさせる一番の問題点であると考えられます。早い段階に先輩療法士と必要な要素、目的を勉強、OJTを行うことで装具に対するイメージをいい方向へシフトチェンジできるのではと考えています。
例)倒立振り子パターン、Trail Limb Angle(TLA)の構築
③に対して、介助の方法のコツを「知ること」「練習すること」「自分の介助を評価すること」も有用です。先輩療法士と若手療法士の介助動画を撮影、比較検討することで介助の違いをその場でフィードバックします。特に矢状面は療法士自身も身体位置が認識しにくいです。後輩療法士が立脚中期から対側の遊脚が上手くいかないとき、動画を撮ってみたところ、立脚中期でまだまだ重心が後方にあり、下肢に骨盤が乗っていない状態でした。後輩は動画を見ると驚いており「もっと前方なんですね!」と良いフィードバックができ、その後の理学療法が修正できました。「感覚」も大切ですが「視覚的」に理解することで大きな気づきが生まれることが多いと感じています。
ポジティブグループの背景因子は?
①効果的と感じている
→若手セラピスト自身が長下肢装具を活用時に即時効果を感じている。
→動画評価にて客観的に動作の変化を感じている。
②明確な目標のもと活用できている
→OJTを含めた動画を使用した個別指導が効果。
ポジティブに感じた背景を深堀してみる
勉強会、OJT、実践を通してステップアップしていることが実感できており、目的を持って長下肢装具を活用できていることが大きな因子だと考えております。活用する目的が明確であるため、効果的に活用できた時の症例の変化に気づきやすく、正のフィードバックが強くなると考えます。この繰り返しが「また長下肢装具を使ってみようかな」と思うきっかけになると思います。若手療法士が上記のように感じるための大事要素として「指導者」の要因もあると考えます。装具に精通している人が教えるのか、そうではない人が教えるのかで装具の活用方法、装具の習熟度、装具へのイメージが大きく変わると思います。指導者全員が装具に精通しているわけではないので、その影響が良くも悪くも出ている可能性があるのかと感じています。教える側の質の問題も一つ大事な点かなと思います。この点において装具専門のチームを作り、個人ではなく全体でフォローアップできる体制づくりを行うことが重要だと感じます。
~まだまだ試行錯誤ですが、当院脳神経班の教育体制を紹介します~
当院脳神経班にも改善する点も多くあると思いますが、現在当院では以下に記述した内容で若手のフォローアップを行っております。1つのヒントになれば幸いと思います。
1)若手1人に対して教育担当が1人専属で担当しており、半年間の在籍中はマンツーマンでフィードバックの時間が必ず設けられております。
2)OJTの頻度としましては、在籍1~2ヶ月は担当症例の半分は同行に着くことがほとんどであり、それ以外の半分の時間は先輩療法士に同行し経験を積んでいきます。在籍3~4ヶ月はOJTの頻度が1/3程度になり、その他2/3の症例は1人で治療を行うようになります。在籍5~6ヶ月はOJTの頻度は1~2症例と減り、ほとんどの症例を若手療法士自ら治療を行います。
3)脳卒中のリスク管理という内容の勉強会も3回に分けて4月~5月中に実施し、サポート体制を構築しております。若手療法士が十分理解した状態で治療(装具療法)を行えるように日々調整等に尽力しています。
まとめ
今回アンケートを取ることで当院の若手セラピストが長下肢装具をどう思っているのかがわかりました。今回の結果から当院でもまだまだ長下肢装具の伝達、教育をより一層行おうと感じるアンケート結果になったと思いました。長下肢装具の介助は若手だけでなく、誰でも難しいと感じる技術だと思いますので、まずは使ってみることで装具療法に興味をしっかり持ってもらうことも大事なことだと思っております。また症例によって介助の難易度も変わると思います。初めから難しい症例を担当し「装具って難しいな」という印象を持たせることはできるだけ避けたい思いが強くあり、若手療法士にはまず意識障害が清明で従命が入りやすい純粋な運動麻痺の症例を担当(同行)するようにしております。これから伸びていく若手療法士に装具に対する苦手意識を持たせないことも大事な要素だと思っております。今回のコラムが長下肢装具の若手教育の一助になることを願っておりまます。
文責:さいたま赤十字病院 理学療法士 栗原達也


