足関節内反が原因で生じる異常歩行を見逃していませんか?~内反への誰でも使える対処法!装具に追加するTストラップを詳しく解説!~

〈キーワード〉 足関節内反・異常歩行・Tストラップ
本記事は理学療法士の方を対象に執筆しています。すべての方に当てはまる内容ではないため、あくまで参考としてご覧ください。また、歩行には筋緊張の低下や亢進以外にも多くの要因が影響することをご理解のうえ、ご参照ください。
脳卒中発症後には、片麻痺に伴って足関節に内反変形を認めることが少なくありません。この変形は、異常歩行を引き起こす主な要因の一つとされています。歩行の安定性を確保するためには装具の使用が有効ですが、実はそれだけでは十分とはいえません。より自然で安全な歩行を実現するために、Tストラップの有効な活用方法についてご紹介します。
脳卒中を発症すると、片麻痺による筋力低下、筋緊張の亢進、感覚障害などが生じることがあります。これにより運動パターンが乱れ、また歩行時に足関節の内反といった異常な姿勢や動きがみられることがあります。足関節の内反は、立位や歩行においてバランスの低下や転倒リスクの増加につながるため注意が必要ですが、装具を装着しただけで安心していませんか?
短下肢装具の装着のみでは解決していないこと
裸足で歩行する際、足関節が内反していると足部は外側で接地し、視覚的にも歩行が不安定であることがわかります。一方で装具を装着すると、足関節の内反は抑制され、床への接地は安定しているように見えます。しかし、装具内部ではなお足関節に内反方向への力が残存しており(図1)、その結果、★部位には下方への圧力が集中します。これにより、装具は踵を支点として外側へ押し出される力を受けることになります(図2)。その影響で、装具と密着している身体全体が外側に誘導され、バランスの不良や転倒のリスクが高まる可能性があります(図3)。そこで、その動きを防ぐためには、内反を抑えるための対策を行う必要があります。
図1 足関節内反による外側への足圧の高まり
図2 足関節内反に伴う装具の外側傾斜誘発
図3 装具の外側傾斜に伴う身体全体への影響
足関節内反を抑制するTストラップを装着すると、何が良くなるのか
内反を抑える目的で用いられる道具にTストラップがあります。これは、図4のようにT字型をしており、足の外側に取り付けて足を内側に引っ張って固定することで内反を矯正するベルトです。
図4 Tストラップ(左)と短下肢装具への装着例(右)
図5 Tストラップの有無とCOP軌跡の変化
姿勢の改善
足関節の内反により装具が外側へ傾斜すると、身体全体も外側へ誘導されます。一方、Tストラップを装着することで、COPが母趾方向へと導かれ、図6に示すように体幹は正中位へと回復します。
図6 Tストラップの有無と姿勢の変化
Tストラップ装着時の注意点
Tストラップは、外側から水平方向に内側支柱へ向かって牽引することが原則です。しかしながら、図7左のようにストラップが内側の斜め上方向に牽引されている例が見られることがありますが、このような状態が放置されているケースも少なくありません。実際には、足関節の内反によって生じる異常歩行を抑制するためには、ストラップを斜め上方向に牽引しても十分な効果は期待できません。異常歩行を効果的に抑制するには、ストラップを水平方向、あるいはやや斜め下方向に牽引する必要があります。この点を十分に留意することが重要です。また、Tストラップを装着した直後には適切に水平に牽引されていても、歩行練習を繰り返すうちにストラップの内側が徐々に持ち上がってくる場合があります。そのような場合には、内側支柱にストッパーを取り付けるなど、牽引方向が維持されるよう工夫をする必要があります。
図7 Tストラップ装着の向き
まとめ
本コラムでは、脳卒中による片麻痺者において、足関節内反が異常歩行を引き起こす問題に対し、単に装具を装着するだけでは十分な効果が得られないことを述べました。特にTストラップの使用は、内反変形といった関節の構造的な問題の抑制にとどまらず、歩行時などの動作においても良好な効果を及ぼす可能性があることを紹介しました。さらに、Tストラップを効果的に使用するためには、外側から内側の支柱に向かって水平あるいはやや下方に適切な牽引を加えることが重要であり、この装着方法に注意が必要であることも併せて解説しました。
(参考文献)
中野 克己・他:Tストラップの問題点と歩行の改善に向けたストラップの工夫 くの字型ストラップの考案. 日本義肢装具学会誌 36(特別) 117, 202.
文責 日本保健医療大学 理学療法士 中野克己