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参考キーワード:作り直し 装具作製 装具再調整

下肢装具に合わせやすい靴の選び方~履きやすさと歩きやすさを両立する3つのポイント~

<キーワード>下肢装具、靴、選び方

※このコラムは、一般の装具使用者やそのご家族向けの内容です。

身体の状態は一人ひとり異なりますので、参考としてお読みください。

 

下肢装具を使用して歩こうとしたとき、多くの方が直面する悩みがあります。

「装具を着けると、今までの靴が入らない」

「かといって、どんな靴を選べばいいのか分からない」

装具を使用した歩行において、靴選びは歩きやすさや安定感を左右する非常に大事な要素です。しかし、一般の靴屋さんでは相談しにくいことも多く、お困りの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そこで本コラムでは、装具を着けた足でも履きやすく、安全に歩くための靴選びのポイントを3つに絞って解説します。なお、ここでは靴と装具が別々になっているタイプ(主にプラスチック短下肢装具)を想定してお話しします。

失敗しない靴選び「3つのチェックポイント」

装具を着けた足で靴を履くのは、想像以上に大変なことです。無理に足を押し込もうとすれば時間がかかりますし、なにより靴と装具の相性が悪いと、歩くときに不安定になったり、痛みが出たりする原因にもなります。

以下の3つのポイントを意識して、ご自身に合わせやすい一足を探してみましょう。

①「履き口」が大きく開くもの

まず大切なのは、足を入れる入り口(履き口)がつま先の方まで大きく開くことです。装具を着けると足首の動きが制限されるため、普通の靴のように足首を伸ばしてスムーズに入れることが難しくなります。そこでおすすめなのが、履き口がガバッと大きく開くタイプです。紐靴の場合、毎回紐を大きく緩めたり締めたりするのは大変ですが、ベルト(面ファスナー)や、サイドにファスナーが付いているタイプを選ぶと、着脱のストレスが大幅に減ります。ベルトタイプのなかには止める向きを変えられるものもあり、状況によって履き方を工夫できるのも利点です。

 

②「中敷き(インソール)」が取り外せるもの

市販の靴には、中敷きが接着されているものと、取り外せるものがあります。装具を使用する場合は、中敷きを取り外せるタイプがおすすめです。装具には厚みがあるため、元々の中敷きを入れたままだと窮屈になりがちです。中敷きを外すことでその分のスペースを確保でき、ゆったりと履くことができます。また、左右の脚の長さが違う場合や、履き心地の微調整をする際にも、中敷きが外せる靴の方が加工しやすく便利です。

 

 

③装具の設定に合った「踵(かかと)の高さ」

見落とされがちですが、実は歩きやすさに直結するとても重要なポイントです。多くの下肢装具は足首の角度を一定に固定、あるいは動きを制限するように作られています。この「装具の設定角度」と「靴の踵の高さ」には密接な関係があります(厳密には、靴の踵とつま先部分の「厚みの差」が重要になります)。

例えば、足首を直角に固定した装具で、踵の高い靴(ハイヒールのような状態)を履くとどうなるでしょうか?装具によって足首が動かせない(底屈しない)ため、すねが前へ倒れ込み、膝がカクンと折れるような力が働いてしまいます。逆に踵が低すぎると、膝がピンと伸びすぎてしまうこともあります。

一般的なスニーカーの踵はつま先よりも1cm〜1.5cm程度高く作られていることが多いです(専門用語で差高やヒールピッチ、ドロップなどと呼ばれます)が、製品によってその高さはまちまちです。そのため、ご自身の装具が「どの程度の踵の高さを想定して作られたか」を知っておくことが大切です。もしご不明な場合は、担当の理学療法士や義肢装具士に「私の装具にはどのくらいの踵の高さの靴が合いますか?」とぜひ相談してみてください。また、病院・施設によって対応は異なりますが、担当の理学療法士や義肢装具士と一緒に靴の試し履きやフィッティングの確認が可能な場合もあります。

左右サイズ違いも解決!「片足販売」の活用

装具の上から靴を履く際、どうしても装具を着けた足の方が大きく(幅広く)なってしまいます。そのため、「装具側にサイズを合わせると、反対側の足がブカブカになってしまう」「かといって2足(2ペア)買って組み合わせるのは経済的な負担が大きい」……そんな悩みを抱えている方は非常に多いです。

そこでぜひ活用していただきたいのが、「片足販売」に対応している靴です。

これは文字通り、左右それぞれを単体で購入できる仕組みです。

これまではサイズ差のためにやむを得ず2足(2ペア)の靴を購入されていた方もいらっしゃるかもしれませんが、このシステムを使えば無駄なく、それぞれの足にフィットする靴を用意できます。一般的に靴のサイズといえば足長で選ぶことが多いと思いますが、装具使用時の靴選びでは足の横幅や周径(足囲)がとても大切です。これはサイズ表記でいう「3E」や「4E」にあたる部分です。片足販売に対応した靴はこうした幅広のサイズ展開も豊富なことが多く、転倒予防や快適な歩行のためにぜひ検討していただきたい選択肢です。

一般的な市販靴すべてが対応しているわけではありませんが、リハビリシューズと呼ばれるジャンルではこうした販売形式が一般的になりつつあります。インターネットで「靴 片足販売」などと検索すると該当する商品が見つかります。選択肢の一つとして、ぜひ知っておいてください。

まとめ

ここまで、装具と一緒に使いやすい靴選びのポイントをご紹介しました。今回挙げた「履き口」「中敷き」「踵の高さ」という3つの視点が、皆さまの靴選びのヒントになれば幸いです。

とはいえ、数ある市販靴の中から、ご自身の足と装具にぴったり合う一足を見つけるのはなかなか難しいものです。そんなとき、一人で悩まずに義肢装具士にも頼ってみてください。義肢装具士は、義肢(義手・義足)や装具の専門家です。リハビリテーションの専門家である理学療法士とチームを組み、「身体の動き」と「道具の機能」の両面から、あなたに最適な提案をしてくれます。

「こんなこと聞いていいのかな?」と遠慮する必要はありません。かかりつけの病院の理学療法士や、あなたの装具を担当した義肢装具士にぜひ相談してみてください。きっと力になってくれるはずです。

【最後にお願い】新しい靴を購入する際は、必ず安全な環境で試し履きをして、転倒のリスクがないか十分に確認してから歩き始めてくださいね。

文責:義肢装具士 中桐佑輔