頑張って動くほど動きにくくなる? ー脳卒中後遺症“痙縮”とは?ー

【キーワード:痙縮、脳卒中後遺症、装具療法】
「このコラムは、一般の方向けの内容です。すべての方に当てはまる内容ではありません。参考程度にお読み下さい」
はじめに
脳卒中の後遺症で痙縮(けいしゅく)という症状があります。入院中や退院後の生活では、リハビリを行うことで活動の幅が広がっていきます。その過程で、痙縮という症状に悩まされる方も少なくありません。痙縮が生じると、筋肉が固くなりその結果として疼痛を引き起こしたり、歩行が不安定になるなどの影響が現れます。痙縮を放置すると、さらに疼痛の増強や関節の変形などを引き起こすことがあります。可能な限り早期の対処が重要です。
このコラムでは、痙縮が強くなってきた時にどうすればよいのか、痙縮が原因で疼痛が生じたり、以前より歩行が不安定になってきたときに、どうすればいいのかをこのコラムでご紹介します。
本記事の内容
脳卒中や脊髄損傷などの中枢神経の障害により生じる麻痺には、副反応として痙縮という症状がみられます。脳、脊髄からの運動の指令と、身体の感覚刺激がうまくかみ合わないことが原因で筋肉が緊張してしまい、関節や身体をうまく動かすことができなくなります。その結果、身体がつっぱってしまう、こわばる、歩行時にバランスが取りにくいなど、さまざまな生活動作に影響を及ぼします。
痙縮が生じるとどうなるの?
【痙縮の影響で痛みが生じる事がある】
筋肉の緊張が続くことで筋肉自体に痛みが生じる事があります。
【関節が動かしにくい】
痙縮を放置し、治療を行わないままでいると、長期間筋肉が緊張したままの状態が続く事で関節が動きにくくなってしまう『拘縮』という状態になってしまい生活に大きな影響を与える可能性があります。たとえば、麻痺の影響でつま先が上側に動かすことが困難(持ち上がらない)で、歩くときにつま先が地面に引っかかったり、すり足で歩かざるを得ない場合、膝関節や股関節の筋肉で代償することになります。そのような努力的な歩行を繰り返す事によって、筋肉のこわばりが更に増強してしまうことがあります。また足先が動きにくいだけではなく膝関節にも曲げにくさが生じるなど、影響が広がることもよく見られます。
【日常生活動作(ADL)が困難となってしまう事がある】
歩行の時につま先がひっかかりうまく歩けない、着替えの際に足首や膝がうまく曲がらず更衣が困難になる、食事の場面では肘や首がこわばってしまい食べ物をうまく口に運べないなど、日常生活動作が難しくなることがあります。
痙縮に対しての治療はあるの?
痙縮の治療の目的は、痙縮によって生じる疼痛の軽減、関節可動域の拡大、手足のこわばりの緩歩行の負担軽減を通じて、生活の質を向上させることです。現在、痙縮に対して行われている主な治療は以下のとおりです。
【リハビリテーション】
- ストレッチ、運動療法で筋肉の柔軟性、関節の可動性を維持、拡大する。
- 理学療法や作業療法による個別の機能訓練を行う。
装具療法は、筋肉の異常な緊張や痙攣を軽減し、機能的な動作を改善するために使用される治療法です。主に脳卒中や脳性麻痺などの神経筋疾患に対して行われます。
目的
- 筋肉の緊張を緩和: 痙縮のある筋肉の緊張を軽減し、動作をスムーズにします。
- 機能の改善: 日常生活の動作能力を向上させ生活の質を高めることを目指します。
- 姿勢の安定: 良好で負担の少ない姿勢を保つためのサポートを行います。
装具の種類
- 短下肢装具(AFO)
- 足関節と膝関節の動きを制御し、歩行を安定させるために使用されます。
治療の流れ
- 評価: リハビリテーション医、理学療法士、義肢装具士が連携し、患者様に必要な装具について相談、選定を行います。担当の理学療法士が義肢装具士、リハビリテーション医に相談を行います。装具診察を行い、患者様に合う装具の選定を具体的に進めていきます。
- 装具の装着: 患者様に合わせた装具を作製・装着し、正しい使い方を指導します。
- リハビリテーション: 作製した装具を使用しながら、リハビリテーションを行い、筋力や動作能力を向上させます。
利点と注意点
- 利点:
- 日常生活の動作が改善される。
- 痙性の軽減により、痛みや不快感が軽減される。
- 注意点:
- 装具の不適切な使用は、逆に身体に負担をかけることがあります。
- 専門家による定期的な装具のチェック(足にしっかりフィットしているか、装具着用による傷がないか、装具の破損がないか等 )や歩行の評価等が大切になります。
まとめ
痙縮は、神経系の障害によって生じる筋肉の緊張異常であり、日常生活に大きな影響を与えることがあります。適切な治療と管理により、症状の軽減や生活の質の向上が可能です。痙縮に対する装具療法は、筋肉の緊張を軽減し、機能的な動作を改善するための有効な手段です。適切な装具を使用し、リハビリテーションを併用することで、より良い結果が期待できる可能性があります。また装具の作製、フォローアップに関しては専門医・理学療法士・義肢装具士との連携が重要です。「最近、足の痛みが気になる」「歩くのが大変になってきた感じがする」等の違和感を感じた時は、入院していた病院の理学療法士に相談してみてください。埼玉県には外来でも装具の作製が可能な病院が多数あります。埼玉県脳卒中下肢装具対応施設一覧(リンク)から装具作製が可能な最寄りの病院を知ることも可能です。
文責:さいたま赤十字病院 理学療法士 栗原達也