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参考キーワード:バランス 安定 長下肢装具

脳卒中リハビリテーションにおける長下肢装具の役割|第3の手としての可能性

〈キーワード〉 長下肢装具 、安定、バランス

 

※本記事は、すべての方に当てはまる訳ではありませんので、参考程度にご利用ください。

長下肢装具の適応として「下肢全体の支持性の低下であり、起立させても起立位を保持できないような場合が第一の適応となる」と石神ら1)は述べています。

実際に長下肢装具を装着すると立っている姿勢が安定すると言いますが本当でしょうか?今回は、その要因をここでお伝えできればと思います。

本記事の内容

長下肢装具を装着するとバランスが良くなるのでしょうか?星ら2)によれば、健常者を対象に両側の膝関節と足関節をギプスにて固定することで静的立位の重心動揺は減少したと報告されています。また、小野塚ら3)によっても脳卒中片麻痺者おいて長下肢装具を装着することで静的立位の重心動揺は減少したと報告されています。開眼開脚立位、開眼閉脚立位、閉眼開脚立位、開眼タンデム立位などの様々な立位においても保持の平均時間の割合が増加し、即時的に静的立位バランスの機能を向上させると報告されています4)。なぜバランスがよくなるのでしょうか?

長下肢装具を装着すると足の支えが保たれる?

要因①

膝関節と足関節を下肢装具によって保持することで、制御する関節の数が減少し、重心動揺が安定したと考えられます。

関節は屈伸など様々な方向へ動きます。その動きを自由度と言います。例えば股関節は屈伸、内外転、内外旋の方向へ動くため3自由度と言えます。本来、各関節の制御を脳が行いますが、脳卒中の影響によりその制御が難しくなります。そこで長下肢装具を装着すると制御する関節の数が減少します。そのため長下肢装具を装着している場合と装着していない場合では関節の制御の難易度が異なり、長下肢装具を装着すると運動制御を単純化することができ、バランスの結果に影響を与えた可能性があります。

要因②

下肢の運動連鎖の破綻が要因だと考えられます。下肢の運動連鎖には上行性運動連鎖と下行性運動連鎖があり、足部からの影響を上行性運動連鎖、体幹からの影響を下行性運動連鎖と呼びます。脳卒中の影響で体幹や下肢、その両方が障害を負うことで運動連鎖が破綻し、姿勢の崩れが生じます。

そこで長下肢装具を装着することによって、この運動連鎖の崩れを補うことができ、姿勢の崩れを予防することが可能となります。そのため長下肢装具を装着することでバランスの結果に影響を与えた可能性があります。

 

長下肢装具は第3の手?

長下肢装具は第3の手になり得るでしょうか。脳卒中の影響により下肢全体の支持性の低下があり立位を保持できないような方を担当することは多いと思います。例えば、立位練習を行う際に、半側空間無視や感覚障害などがあり、膝折れが頻繁に起こる方を担当するとします。この場合、転倒を予防するために注意が必要です。しかし、体幹を支えたり、膝を押さえたりしていると、セラピストの手が足りなくなってしまいます。その結果、介助に集中し過ぎるあまり、本来の目的である筋活動を促す立位練習が十分にできなくなることがあります。そこで、膝折れを予防する長下肢装具を使用すれば、セラピストは他の部分に意識を向けながら、より効果的な立位練習を行うことができます。

セラピストの手は2本しかありません。そのため長下肢装具はセラピストの第3の手になるのではないでしょうか。

 

まとめ

本記事では、長下肢装具を装着することで安定する要因についてお話ししました。

 

ポイント

・長下肢装具は関節の自由度を制御し、下肢の運動連鎖を保持することで安定する可能性があります。

・長下肢装具はセラピストの第3の手になりうる可能性があります。

 

最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

参考文献

1)石神重信,高田研,新舎規由,鈴川活水,佐藤貴子:長下肢装具.Journal of Clinical Rehabilitation.19:943-949,2010

2)星文彦,鈴久奈陽子,清水薫:静止立位重心動揺に対する足・膝関節固定の影響.北海道大学医療技術短期大学部紀要.9:39-45,1997

3)小野塚雄一,井上和久:長下肢装具の有無が静的立位時の重心動揺と前額面のアライメントに与える影響.支援工学理学療法学会誌.3:13-21,2023

4)Ota T, Hashidate H, Shimizu N and Yatsunami M. Early effects of a knee-ankle-foot orthosis on static standing balance in people with subacute stroke. The Journal of Physical Therapy Science.31:127-131,2019

 

文責:理学療法士 小野塚雄一