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参考キーワード:QOL 下肢装具

履きたい靴をあきらめないために:下肢装具を靴に合わせやすくする工夫と相談のポイント

履きたい靴をあきらめないために:下肢装具を靴に合わせやすくする工夫と相談のポイント

キーワード
下肢装具/QOL/靴

※本記事の内容は全ての方に該当するものではないため、参考程度にご使用ください。

脳卒中のあとに下肢装具を使うようになると、「装具をつけると履ける靴が限られてしまう」「本当はこの靴を履きたいのに入らない」「装具が引っかかって履きにくい」と悩む方は少なくありません。せっかく歩けるようになっても、履きたい靴が履けないことで、外出の意欲が下がったり、人前に出ることをためらったりすることがあります。しかし、装具は「作って終わり」ではなく、使い方や生活に合わせて調整・加工を検討できる場合があります。

本記事を読むことで、「履きたい靴を履くための具体的な工夫」と「装具の調整をどのように考えればよいのか」について理解できるようになります。

なぜ「履きたい靴が履けること」が大切なのでしょうか

「靴が履けるかどうか」は、単なる見た目や好みの問題ではありません。履きたい靴が履けることは、毎日の生活のしやすさや気持ちの前向きさに大きく関わります。

まず、自分の生活に合った靴を選べることで、外出の機会が増えやすくなります。

通院や買い物だけでなく、仕事、地域活動、趣味、旅行、冠婚葬祭など、場面に応じた靴を選べることは、社会参加のしやすさにつながります。

また、「この靴なら安心して出かけられる」「好きな靴で外に出られる」と感じられることは、生活の満足感、つまり生活の質(Quality of Life; QOL)の向上にもつながります。

さらに、履きやすい靴と装具の組み合わせが見つかると、装具を使うこと自体が苦になりにくくなります。その結果、日常生活の中で歩く機会が増え、活動量が増加しやすくなります。歩く機会が増えることは、歩行能力の維持・向上にもつながる可能性があります。

このように、「履きたい靴が履けること」は、活動機会の拡大、社会参加の促進、そして歩行能力の向上にも関係する大切な要素です。

靴を履きやすくするために、装具ではどのような工夫が考えられますか

装具の加工にはいくつかの考え方があります。ただし、どの工夫にもメリットと注意点があり、歩きやすさや安全性とのバランスを見ながら検討することが大切です。

踵の部分をくり抜く工夫(図1)

かかとをくり抜く

装具の踵まわりが大きいと、靴のかかと部分に引っかかって履きにくくなることがあります。そのような場合には、踵の部分を一部くり抜くことで、靴に入れやすくなることがあります。

一方で、踵まわりは装具の安定性にも関わる部分です。そのため、単純に大きく切ればよいわけではありません。くり抜き方が過度になると、装具としての支えが弱くなり、歩行時の安定性に悪影響が出ることがあります。

側壁をどこまで延ばすかを見直す工夫(図2)

側壁をどこまで伸ばすか

装具の側壁とは、足部の横を支える立ち上がりの部分です。この側壁が高すぎたり長すぎたりすると、靴の開きが足りず、装具ごと足を入れにくくなることがあります。

そこで、必要な支持性を保ちながら、側壁をどこまで延ばすかを見直すことで、靴への出し入れがしやすくなる場合があります。

側壁を適切な長さ・高さに調整することで、靴の中での干渉が減り、より多くの靴に対応しやすくなることがあります。とくに、普段履きの靴だけでなく、仕事用の靴や見た目を重視した靴を履きたい場合には、この調整が重要になることがあります。

ただし、側壁には足部の横ぶれを抑えたり、装具全体の安定性を助けたりする役割があります。そのため、見た目や履きやすさだけを優先して短くしすぎると、歩行が不安定になったり、装具として必要な機能が不足したりすることがあります。

指先部分をあまり余らせない工夫(図3)

指先部分をあまり余らせない工夫(図3)装具のつま先部分が必要以上に長いと、靴の中で余りが大きくなり、靴選びが難しくなることがあります。また、見た目としても大きく見えやすく、「装具をつけると靴が不格好になる」と感じる理由の一つになることがあります。

そこで、装具の指先部分を必要以上に長くしすぎず、できるだけ足の形や靴の形に合わせて調整することが考えられます。これにより、靴の中でおさまりやすくなり、履ける靴の選択肢が広がる可能性があります。

ただし、つま先部分の長さには、足部の支持や靴の中での安定性に関わる意味もあります。短くしすぎると、前足部の支えが不十分になったり、装具と足の位置関係が崩れたりすることがあります。

そのため、「できるだけ短くする」のではなく、「必要な機能を保ちながら、余りを少なくする」という考え方が大切です。

前足部の固定ベルトを工夫する(図4)

2-4.前足部の固定ベルトを工夫する(図4)前足部の固定ベルトに角環を使う構造では、靴の中で厚みが出たりすることがあります。そのため、場合によっては、角環を用いない形に変更することで、ベルトの厚みや引っかかりが減少し、装具が靴の中におさまりやすくなることがあります。

一方で、固定力や耐久性、締める位置の安定性については、角環があった方が有利です。そのため、その方の足部の状態や必要な固定性を見ながら判断することが重要です。

足首の固定ベルトの位置を工夫する(図5)

2-5.足首の固定ベルトの位置を工夫する(図5)足首周囲は靴の履きやすさに影響しやすい部分の一つです。足首の固定ベルトにある角環が靴にあたり、靴が履きにくくなることがあります。このような場合には、足首ベルトの位置をやや上方に調整することで、靴への干渉を減らし、履きやすくなることがあります。

一方で、ベルト位置を上げると足首の固定力は低下する可能性があります。そのため、ふくらはぎのこわばりが強い方や、足関節の安定性が十分でない方には適さない場合があります。

このように、ベルト位置の調整は履きやすさの改善に有効な場合がありますが、必要な固定性とのバランスを考慮して判断することが重要です。

 

装具を加工するときに大切なのは「履きやすさ」と「歩きやすさ」の両立です

靴を履きやすくしたいという希望は、とても大切です。しかし、装具は見た目や履きやすさだけのためのものではなく、歩行を助け、安全性を高めるための道具でもあります。

そのため、加工を進めるときには、「履きやすくなったけれど歩きにくくなった」「靴には入るようになったけれど足が不安定になった」ということが起こらないように注意しなければなりません。

特に注意したいのは、過度なカットです。踵を大きくくり抜きすぎる、側壁を短くしすぎる、つま先部分を切りすぎるといった加工は、装具本来の支持性を損ない、歩きにくさにつながることがあります。

そのため、装具の加工は「靴に入るかどうか」だけで決めるのではなく、実際の歩きやすさまで含めて検討する必要があります。

大切なのは、履きやすさと歩きやすさのちょうどよいバランスを見つけることです。

 

自分で判断せず、専門職に相談することが大切です

装具の加工について考えるときは、自己判断で進めず、専門職に相談することが大切です。

相談先としては、医師、理学療法士、作業療法士、義肢装具士が挙げられます。埼玉県内の方は装具に関する相談を受けつけている埼玉県脳卒中下肢装具対応一覧をご参照ください。

脳卒中下肢装具マップ


「この靴を履きたい」という希望は、遠慮せずに伝えてよい内容です。普段履きたい靴、仕事で必要な靴、冠婚葬祭で履きたい靴など、具体的に伝えることで、装具の調整方針がより明確になります。

 

こんな伝え方をすると相談しやすくなります

専門職に相談するときは、次のようなことを具体的に伝えると、調整の方向性が考えやすくなります。

どの靴を履きたいのか

実際に履きたい靴が決まっている場合は、その靴を持参すると役立ちます。靴の形や開き方、素材、踵の硬さによって、装具との相性は大きく変わります。

どこが履きにくいのか

「かかとが入らない」「側面が引っかかる」「ベルト部分が厚くて入らない」「つま先が余って靴先に当たる」など、履きにくい場所を具体的に伝えると、加工や調整のヒントになります。

どんな場面で履きたいのか

通院用、屋外歩行用、職場用、冠婚葬祭用など、用途によって必要な安定性や見た目の優先度は異なります。

 

まとめ

下肢装具を使っていると、靴が履きにくい、履きたい靴が履けないという悩みが生じることがあります。

そのような場合には、踵のくり抜き、側壁の見直し、指先部分の調整、ベルトの工夫といった方法が検討できます。

こうした工夫によって、履ける靴の選択肢が広がり、QOLの向上や社会参加の促進につながる可能性があります。

ただし、装具の加工は、履きやすさだけでなく、歩きやすさや安全性とのバランスが大切です。

装具の調整については、医師、理学療法士、作業療法士、義肢装具士に相談しながら、その人の生活に合った方法を検討していくことが重要です。

 

文責:湘南医療大学 理学療法士 大村優慈