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コラム

Column

在宅で増える義肢装具の不適合〜訪問看護ステーションにおける理学療法士の役割と支援〜

在宅で増える義肢装具の不適合―訪問看護ステーションにおける理学療法士の役割と支援―

キーワード:義肢装具 地域・在宅 訪問看護ステーション

<理学療法士向け>
※本記事は理学療法士の方を対象に執筆したものです。内容は全ての方に当てはまるものではありませんので、参考としてお読みください。

脳卒中などを発症し、リハビリテーション病院等で自分に合った義肢装具(下肢装具など)を作って退院したものの、「最近、装具が足に当たって痛い」「家の中では使いにくくて、結局外してしまっている」「どこに修理や作り直しを頼めばいいかわからない」と、相談を受けた経験はありませんか。

はじめまして。ホウカンTOKYO(訪問看護ステーション・リハビリテーション)で理学療法士をしております、岩下航大です。私は国内で唯一の義肢装具に特化した専門病院(医療機関)にて約20年にわたり臨床実践を積み重ね、現在は在宅・地域という生活の場で訪問によるリハビリテーションに携わっています。

病院から地域在宅へとフィールドを移した私が直面したのは、「病院で処方されたはずの義肢装具が、在宅生活で十分に活かされていない」というリアルな実態でした。

そこで本シリーズでは、退院後に生じる装具トラブルの原因や義肢装具格差の問題、そして地域における支援のあり方について、全3回にわたり解説します。

全3回の内容

【第1回】在宅で増える義肢装具の不適合〜訪問看護ステーションにおける理学療法士の役割と支援〜

  • 退院後に装具が合わなくなる理由
  • 痛みや使いにくさが生じる背景
  • 装具を外してしまうことのリスク
  • 義肢装具格差とその背景
  • 第1回まとめ

【第2回】退院後に生じる装具トラブルへの対応〜訪問看護ステーションにおける評価と関わり〜

  • 訪問看護ステーションの役割
  • 理学療法士・看護師・義肢装具士の連携
  • ホウカンTOKYO(訪問看護ステーション)での取り組み
  • 第2回まとめ

【第3回】「装具で広がる生活と社会参加」〜生活を支える装具の価値〜

  • 歩行以外における装具の役割
  • 地域参加や社会参加との関係
  • 装具トラブル時の相談方法
  • まとめ

なぜ、退院後に義肢装具が合わなくなり「使われない」状況が生まれるの? ~病院での想定と自宅での想定外の乖離~

病院における退院支援は、あくまでも退院というイベントが起こる前の予測や想定のもとに進められます。しかし、どれほどスタッフが綿密に評価を行い精度が向上したとしても、実際の在宅生活では想定外のことが発生する可能性があります。 自宅での生活は、病院の平らな床とは異なり、段差や狭い廊下、屋外の不整地や坂道など、障害を想定していない多様な環境が存在します。また、退院後の活動量の変化によって筋肉量が増減したり、麻痺側の浮腫や痙縮の程度が変化したりすることは決して珍しくありません。さらには、毎日の使用によるファスナーの緩みや破損など、義肢装具そのものの経年的な劣化も必ず起こります。このように、入院中の環境と退院後の生活との間には大きな乖離が生じやすいのです。

フォローアップの途絶を生み出す義肢装具格差とは何か?

実際の在宅支援の現場においては、病院でしっかりと合わせたはずの治療用装具が退院後には全く使われず放置されていたり、不具合が生じているにもかかわらず対応年数が過ぎ新たな更生用装具の作製や修理の手続きが進んでいなかったりと、適切なフォローアップから取り残されてしまうケースが頻繁に見受けられます ¹)。 在宅生活において足に合わない義肢装具を使い続けることは、痛みや不快感を生み、これが義肢装具に対して否定的なイメージを抱く原因となります。その結果、在宅では一時的な安楽のために自ら義肢装具を外してしまうという負の選択を招いてしまいます(図1)

在宅で増える義肢装具の不適合―訪問看護ステーションにおける理学療法士の役割と支援―

構造的限界:義肢装具士のリソース不足と在宅訪問のハードルとは?

このようなフォローアップの途絶がなぜ発生してしまうのでしょうか。その背景には、質の高いフォローアップを受けられる環境にいるかどうかが、住んでいる地域や関わる医療専門職によって大きく異なってしまう「義肢装具格差」という問題が存在します。 その最大の根本要因は、義肢装具の修理や再作製を担う専門職である義肢装具士の人的資源が絶対的に少なく、かつその多くが急性期や回復期の病院(医療期)に偏在している点にあります。さらに、義肢装具士による在宅訪問は、利用者の生活環境に合わせた適合や調整、継続的なフォローアップのために非常に重要な支援です。しかし、医師や訪問看護・リハのように「訪問そのもの」を評価する公的な報酬制度がなく、在宅対応にかかる移動時間、交通費、人件費は事業者側の負担となりやすい現状があります。さらに、近年の材料費高騰や燃料費、物流コストの上昇も重なり、義肢装具製作所が個別に在宅対応を継続することは採算面で非常に厳しい構造となっています。その結果、本来フォローアップが必要であるにもかかわらず、支援の仕組みの谷間に取り残され、専門的な調整や継続支援を受けられない方が生じているのが現状です。

まとめ

退院後の義肢装具は、身体機能や生活環境の変化、装具の劣化などにより、痛みや不適合が生じることがあります。

しかし、義肢装具士の地域偏在や訪問支援の制度的課題から、適切な調整や再作製につながらないケースも少なくありません。

訪問看護ステーションの理学療法士には、装具と身体・生活環境を総合的に評価し、多職種と連携して継続的に支援する役割が求められます。

第2回では、退院後に生じる装具トラブルへの対応―訪問看護ステーションにおける評価と関わり―について、解説予定です。

 

【引用文献】

1)光村実香. 在宅領域で必要な訪問理学療法の“力”—多種多様な対象者や他職種の背景を的確に捉えて. PTジャーナル 55, 180-184 (2021).

 

ハノン・ケアシステム(株) ホウカンTOKYO 副所長 理学療法士 岩下航大