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参考キーワード:後方介助 教育 歩行練習 装具療法

「装具療法」というキーワードの功罪──それは私たちの思考を止めてはいないか?

キーワード:下肢装具,歩行練習,運動療法 

※本記事は理学療法士向けに作成されています

※参考程度にご使用ください。

はじめに 

脳卒中後の歩行練習では、下肢装具を使用する場面が少なくありません。

近年は研究やガイドラインの整備が進み、「課題志向型トレーニング」や「歩行量を増やすこと」の重要性が広く知られるようになりました。その流れの中で、長下肢装具や短下肢装具を使用した歩行練習は、多くの医療機関で積極的に行われています。

実際に、装具を使用することで安全に歩行練習を行いやすくなり、歩行量を確保しやすくなることは大きな利点です。

しかし一方で、私は日々の臨床の中で、「装具を使ってたくさん歩く」ということだけが目的になってしまっている場面に出会うことがあります。

もちろん歩行量は重要です。しかし、同じ装具を使用していても、理学療法士の介助方法や練習内容によって患者さんの身体の使い方は大きく変わります。

私はこれまで、下肢装具を使用した歩行練習中の筋活動を表面筋電図で測定してきました。その経験から強く感じるのは、装具は治療そのものではなく、運動療法を実施するための道具であるということです。

装具が患者さんを歩かせるのではありません。装具を活用しながら、どのような運動経験を提供するのかが重要なのです。

この記事では、「装具を使うこと」と「装具を使って何を目指すのか」の違いについて考えてみたいと思います。

 

なぜ装具を使った歩行練習が広く行われるようになったのでしょうか?

脳卒中後のリハビリテーションでは、「実際に行いたい動作を繰り返し練習すること」が大切だと考えられています。

歩けるようになりたいのであれば、歩く練習をする。そのためには十分な練習量を確保することが重要です。

しかし、脳卒中後の早い時期には、麻痺や筋力低下、バランス能力の低下などによって安全に歩くことが難しい場合があります。

そのようなときに役立つのが下肢装具です。

装具を使用することで膝折れや足部の不安定性を補い、より安全に歩行練習を実施できます。その結果、歩行練習の量を増やしやすくなります。

実際、多くの研究で装具を活用した歩行練習の有効性が示されており、現在では脳卒中リハビリテーションにおける重要な選択肢の一つとなっています。

 

「たくさん歩くこと」が目的になっていないでしょうか?

ここで少し考えてみたいことがあります。

それは、「歩行量を増やすこと」と「歩けるようになること」は、まったく同じ意味ではないということです。

例えば、同じ100メートルを歩いたとしても、その内容はさまざまです。

身体を支えながら慎重に歩いた100メートルもあれば、左右の脚にしっかり体重を乗せながら歩いた100メートルもあります。

また、介助者が身体をどのように支えるかによっても、患者さんが経験する運動は大きく変わります。

歩行量は重要です。しかし、身体がどのような運動を経験したのかという視点も同じくらい重要です。

ところが、「歩行量を増やすことが大切」というメッセージが広く浸透した結果、いつの間にか「とにかく歩けばよい」という考え方に変わってしまうことがあります。

もちろん、それは本来の考え方ではありません。

課題志向型トレーニングとは、ただ動作を繰り返すことではなく、目的とする運動を繰り返し経験することを意味しているはずです。

 

装具は治療そのものではありません

私はこれまで、装具を使用した歩行練習中の筋活動を表面筋電図によって観察してきました。

その中で感じるのは、装具が患者さんの身体を直接変化させているわけではないということです。

同じ患者さんが、同じ装具を装着して歩いたとしても、介助の方法や歩行環境が変わるだけで筋活動の様子が変化することがあります。

つまり、患者さんが経験している運動は、装具だけで決まるわけではありません。

装具は、理学療法士が適切な運動を提供するための道具です。

少し極端な言い方をすると、装具そのものに治療効果があるのではなく、装具を用いてどのような運動療法を実施するかが重要なのです。

これは装具の価値を否定する話ではありません。

むしろ逆です。

装具は非常に優れた道具だからこそ、それをどのように使うかが問われているのです。

 

装具を使って「何を練習したいのか」を考える

装具を装着した患者さんを前にしたとき、私たちは次のような問いを持つ必要があります。

「この患者さんに、どのような身体の使い方を経験してほしいのだろうか」

「どのような運動を学習してほしいのだろうか」

「どのような介助が、その学習を助けるのだろうか」

こうした問いを持つことで、装具の役割は単なる補助具から運動学習を支援するツールへと変わります。

装具を装着して歩くこと自体が目標ではありません。

装具を活用しながら、患者さんがより良い運動を経験し、その経験を積み重ねていくことが目標です。

その視点を持つことで、同じ装具を使用していても、リハビリテーションの内容は大きく変わってきます。

 

まとめ

下肢装具は、脳卒中後の歩行練習において非常に重要な役割を果たします。

装具によって安全性が向上し、歩行練習の量を確保しやすくなることは大きな利点です。

一方で、装具を使ってたくさん歩くことだけが目的になってしまうと、本来大切な「どのような運動を経験したか」という視点が見えにくくなることがあります。

装具は治療そのものではなく、運動療法を実施するための道具です。

だからこそ、「装具を使うかどうか」だけではなく、「装具を使ってどのような運動療法を提供したいのか」を考えることが大切です。

装具の価値を最大限に引き出すために、私たちはもう一度、その原点に立ち返る必要があるのではないでしょうか。

 

文責:宝塚リハビリテーション病院 理学療法士 中谷知生