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Column

2025年最新! 長下肢装具を作製する時期って、いつがいいの?

〈キーワード〉 長下肢装具・装具作製時期・予後予測

 

※本記事は、理学療法士の方を対象に記載したものです。全ての方に当てはまる内容ではありませんので参考程度にお読みください。

 

 

こんな疑問はありませんか?

「担当の患者さんが長下肢装具を使えば歩行練習ができるのだけど、作製するべきなのかな?作製したときには必要なくなっているかもしれないし・・・どうしよう・・・。」

本記事は長下肢装具を作製する時期や予後予測をするポイントについて解説します。

本記事の内容

まず、長下肢装具を作製する前に長下肢装具がどれくらいの時間必要になるのか予測する必要があります。長下肢装具の作製には、採型から完成まで早くても1~2週間程度の期間を要します。そのため、患者さんの回復状況を適切に見極めずに作製を進めると、完成時には短下肢装具でも歩行可能な状態に回復している可能性があります。では、どのようにして予後予測をしているのでしょうか。いくつか解説していきます。

発症から1か月経過した脳卒中患者の継続的な長下肢装具の必要性を示す予測因子

紹介する研究は、脳卒中発症から10日目に長下肢装具なしで歩くことができなかった重度の片麻痺患者139名を対象に行われました。患者は、発症後1か月の長下肢装具の必要性に応じて、「長下肢装具が継続的に必要なグループ」と「長下肢装具が必要にならなくなったグループ」の2つのグループに分けられました。ロジスティック回帰分析を使用して、脳卒中発症後1か月での長下肢装具の継続的な必要性の予測因子を特定したものになります。結果は運動障害、感覚障害、Pusher現象の重症度、およびBMI(Body Mass Index)は、長下肢装具の継続的な必要性の予測因子として特定されました(下の表に各評価の中央値を示します)。さらに、座位での麻痺側の膝伸展自動運動のROMは、予測能力が最も高いことが報告されています。

次に長下肢装具の必要性として特定された、運動麻痺やPusher現象をどのように予測するかを解説します。

 

脳画像から運動麻痺やPusher現象の予後予測

運動麻痺やPusher現象の予後予測を行う上で、脳画像を確認することが大変重要です。ここでは、脳画像での運動麻痺とPusher現象の予後予測について、解説します。

運動麻痺に関わる外側皮質脊髄路は大脳皮質の運動野(中心前回)→放線冠→内包後脚→中脳大脳脚→延髄交叉(反対側へ)→脊髄側索→脊髄前角細胞へ走行します。脳画像ではこの走行部分が脳梗塞や脳出血、脳浮腫などにより、損傷や圧迫がされていないか、どれくらい皮質脊髄路が残存しているかを確認する必要があります。下の画像は中心前回、放線冠、内包後脚、中脳大脳脚を示しています。この部分が損傷していないかを確認しましょう。もしも、その部位を損傷されている場合は、運動麻痺の予後は不良となる可能性があり、長下肢装具の必要性が高いと考えられます。

続いてPusher現象の有無と予後予測について解説します。Pusher現象の責任病巣で報告されているものでは、視床後外側核、島皮質、中心後回の皮質下、上側頭回、下頭頂小葉などがあり、いずれも姿勢定位にかかわる領域とされています。また、Pusher現象が遷延する症例では半側空間無視を合併していることが多いとの報告もあるため、運動機能だけでなく高次脳機能障害の評価も行い、予後を予測した上で、長下肢装具の継続使用の必要性を検討しましょう。Pusher現象がある場合、ADLの回復が3.6週間遅延するとの報告もあり、長下肢装具の必要性は高いことが考えられます。

<参考文献>

1)Naohide Tsujimoto et al. Predictors indicating the continuous need for a knee-ankle-foot orthosis in stroke patients at 1 month after onset. J Stroke Cerebrovasc Dis. 2023 Dec;32:107425.

2)Lin L. Zhu et al. Lesion Load of the Corticospinal Tract Predicts Motor Impairment in Chronic Stroke. Stroke. 2010 May;41:910-5.

3)PedersenPM, et al.: Ipsilateral pushing in stroke: incidence, relation to neuropsychological symptoms, and impacton rehabilitation. The Copenhagen Stroke Study. Arch Phys Med Rehabil. 1996;77(1):25-8.

長下肢装具を作製する時期

続いて長下肢装具を作製する時期について解説していきます。

長下肢装具を使う目的から考えてみよう

長下肢装具は短下肢装具とは違い、安全な生活をするための生活用装具ではありません。あくまで、立位・歩行練習の治療効果を高める治療用装具になります。そのため、患者さんが1人で長下肢装具を装着して、生活をすることは考慮しません。

したがって、長下肢装具は最も治療効果が高くなる前の時期に作製するのが望ましいと考えられます。それはいつになるのでしょうか?

 

脳卒中運動麻痺回復ステージ理論から考えてみよう

運動麻痺が回復する時期は下の図の運動麻痺回復ステージ理論から検討することができます。左の1stステージは残存した皮質脊髄路を刺激しその興奮性を高めることで麻痺の回復を促すことができる時期で興奮性は急性期から急速に減衰し、3か月までには消失すると言われています。2ndステージでは、3か月をピークに皮質間の抑制が解かれ、回復メカニズムが機能する時期です。代替出力として皮質ネットワークが構築され、残存した皮質脊髄路の機能効率を最大限引き出せると報告されています。つまり、麻痺肢に荷重をかけて皮質脊髄路の興奮性を高め、麻痺の回復を促すのであれば、皮質脊髄路の興奮性をより高められる時期である急性期に作製する必要があると考えられます。また、運動機能の代替出力を引き出すための目的であれば発症3か月よりも前に作製がよいと考えることができます。

脳卒中運動麻痺回復可塑性理論とステージ理論に依拠したリハビリテーション

<参考文献>

3)Swayne OB,et al.Stagesof motor output reorganization after hemispheric strGke suggested by longitudinalstudies of cortical physiology.CerebCoriex18 :1909-1922,2008.

4)原寛美:脳卒中運動麻痺回復可塑性理論とステージ理論に依拠したリハビリテーション.脳外誌 21(7):516-526,2012

まとめ

今回は、長下肢装具を作製する時期についてお話ししました。

長下肢装具を作製する際に抑えておきたい予後予測のポイント

①運動障害、感覚障害、Pusher現象の重症度、およびBMIは、KAFOの継続的な必要性の予測因子となる可能性があるため、評価のポイントとして抑えておきます。

②脳画像を確認する際は外側皮質脊髄路の走行部位に責任病巣が重なっていないか確認し、どれくらい皮質脊髄路が残存しているかをポイントとして抑えておきます。脳画像から運動麻痺の予後予測に役立てましょう

 

 

長下肢装具を作製する時期

①長下肢装具は治療用装具です。治療効果の高い時期に使用できるよう作製しましょう。

②長下肢装具を使用しての治療効果の高い時期は、発症から3か月くらいまでの可能性があります。運動麻痺の回復を促すのであれば急性期から作製する必要があると考えられます。

 

文責 平成の森・川島病院 理学療法士 松岡 廣典