回復期に勤める理学療法士が解説する長下肢装具を作製するメリットと注意点

〈キーワード〉 長下肢装具・装具作製・本人用装具
※本記事は、理学療法士の方を対象に記載したものです。全ての方に当てはまる内容ではありませんので参考程度にお読みください。
こんな疑問はありませんか?
「病院の備品の長下肢装具で立位や歩行練習はできるから、わざわざ作製する必要あるの?」
本記事は長下肢装具を作製するメリットや注意点はどんなことがあるのかについて解説します。
本記事の内容
長下肢装具を作製する際には、おそらく備品装具があれば、それを用いて練習をすすめるかと思います。しかし、備品装具ではサイズが合わないことなど、十分な練習に繋がらないこともあります。そのような時は、「長下肢装具を作製」することは選択肢の一つです。しかし、長下肢装具を作製してどのような目標で練習をしたいのか今一度検討してから作製するようにしましょう。
理学療法士が長下肢装具を作製する際には、装具を用いたリハビリテーションの目標を明確に設定し、その目標に向けた具体的な練習方法を考えることが重要です。
「歩行能力を獲得したい。」
「立ち上がりや移乗動作の介助量を軽減したい。」
などが考えられるかと思います。
そのためにどんな練習をしたいのでしょうか?
「立位で麻痺側下肢へ荷重練習をしたい。」
「介助歩行をして、麻痺側下肢のトレーニングをしたい。」
などがあげられるでしょうか。
次に対象の患者さんがその練習が継続できるかどうかを検討します。
全身状態(バイタルが安定しているか)や栄養状態などが安定していて、継続的な練習が可能か主治医と相談が必要な場合があります。
あくまで長下肢装具を作製するには主治医より処方が必要なため、必要性があると予測される場合は速やかに相談することが重要です。
長下肢装具を作製するメリット
続いて長下肢装具を作製するメリットについて解説していきます。
A.運動麻痺のため歩行練習が困難な患者さんも歩行練習ができる!?
完全脊髄損傷者においてロボットや免荷式トレッドミルを用いた荷重下での他動運動の提供によって歩行時と類似した筋活動が生じるとの報告があり、荷重下で、リズミカルな歩行様運動を提供することは、随意運動が困難な脊髄損傷例の歩行再建において重要なことと報告されています。脳卒中片麻痺を呈した症例であっても、下肢に支持性の問題がある症例でも長下肢装具を装着すれば荷重下で、リズミカルな歩行練習が可能となります。下肢の支持性に問題があっても、歩行練習に挑戦することが可能です。
B.長下肢装具を作製することで、ADLの自立度向上に寄与する!?
急性期病院で長下肢装具を作製した者(作製群)と作製しなかった者(非作製群)を対象として回復期病院へ転院後のFIM(機能的自立度評価表)の歩行と階段昇降の自立度の変化についての報告があります。結果としては、作製群は非作製群よりもFIM歩行が改善するタイミングが早くなることと最終評価時におけるFIM階段昇降の自立度が高かったことが報告されています。つまり、早期に長下肢装具を作製することはADLの向上に寄与する可能性が考えられます。
C.備品装具に比べ、本人用装具の方が歩きやすい!?
装具は、身体にフィットしていることが大切です。長下肢装具の場合、脚の長さが合っていないと、鼠径部近くにある金属支柱や装具ベルト(大腿半月)が股関節の付け根に当たり、痛みや傷ができてしまうことが考えられます。サイズの合ったものであれば、備品装具に比べ、予防することが可能です。また脚の太さに合ったものを使用することで、正しい支持が得られ、関節の動きを適切に制御できるため、歩行練習を効果的にすすめることができます。
<参考文献>
1)阿部浩明.:脳卒中重度片麻痺者の歩行再建をめざした急性期の理学療法.理学療法学, 47 巻 3 号 p. 280-288,2020年
2)栗田慎也,他.:急性期病院での長下肢装具の作製が脳卒中片麻痺患者の回復期リハビリテーション病棟退院時の歩行能力に与える効果─多施設の回復期リハビリテーション病棟のデータより─.理学療法科学,36 巻 1 号 p. 41-45,2021年
長下肢装具を作製するときに抑えておきたい注意点
長下肢装具を作製するにあたっては、注意点もいくつかありますので、一度確認をしてみましょう。
A.長下肢装具の作製にかかる経済的負担
治療用装具として長下肢装具を作製する際は、医療保険を利用します。自己負担の割合によって、負担額が変わってきますが、装具作製後に一度、装具製作会社に全額を支払う必要があります。長下肢装具の値段は12~30万円程度で作製が可能ですので、一時的になりますが、ご本人・ご家族に経済的負担がかかります。(全額先払い!?装具を作製するのにお金がかかるの?)
B.長下肢装具から短下肢装具へカットダウンのタイミング
長下肢装具は、多くの場合、病院で治療用装具として作製され、いずれ短下肢装具にカットダウンすることが想定されています。その時期が間近に迫っているとすれば、長下肢装具を作製しなくてもよい可能性が考えられます。あくまで私見ではありますが、長下肢装具の作製には、患者・家族に経済的負担がかかるため、最低でも1か月以上カットダウンの時期が来ない場合に長下肢装具を作製するなど、作製する際には長下肢装具の必要性を十分検討するようにしましょう。
まとめ
今回は、長下肢装具を作製するメリットと注意点についてお話しました。
長下肢装具を作製するメリット
① 運動麻痺があり、下肢に支持性の問題がある症例でも荷重下で、リズミカルな歩行練習が可能な場合があります。
② 早期に長下肢装具を作製することはADLの向上に寄与する可能性が考えられます。
③ 備品装具に比べて、長さや太さなどのサイズが身体にフィットしているため、痛みや傷などのリスクを予防することが可能となります。正しい支持が得られ、関節の動きを適切に制御できるため効果的に歩行練習が可能です。
長下肢装具を作製するときに抑えておきたい注意点
① 長下肢装具の値段は約12-30万円程度であり、一時的に全額のご負担をご本人・ご家族にして頂く必要があります。
② 長下肢装具から短下肢装具へカットダウンする時期が間近に迫っている場合は、長下肢装具作製の意義は低いです。
文責 平成の森・川島病院 理学療法士 松岡 廣典