長下肢装具の膝継手の種類の選び方と活用方法

※本記事は、理学療法士向けの記事となっております。すべての方に当てはまる訳ではありませんので、参考程度にご使用ください。
長下肢装具の膝継手は多岐にわたり、近年では遊脚期の膝継手のロック解除の機能を備えた膝継手が用いられるようになっています。しかし、臨床現場においては、既存の膝継手が使用されており、これらの理解も重要です。
今回は主にSpring Assisted Extension Knee Joint(以下;SPEX)、リングロック、ダイアルロック、ステップロック、3-wayジョイントをご紹介いたします。
皆様はそれぞれの膝継手の機能を適切に使い分けられていますでしょうか?本記事では、膝継手の機能と活用方法について解説します。
出典:日本支援工学理学療法学会
【機能】膝関節伸展固定、屈曲0~60°の範囲内で補助や制限、屈曲遊動
【特徴】継手前下方にバネを入れ、伸展補助ができる
バネの代わりに金属ロッドを用い、伸展位で保持できる
【価格】約4~5万円
【効果】立位・歩行動作時の膝折れ防止
歩行動作時の立脚期の膝屈曲位の伸展補助
立位・歩行時の膝関節のコントロールのトレーニングが可能
長下肢装具の膝継手(リングロック)
【機能】膝関節伸展固定、屈曲遊動
【特徴】リングは上下2段式、膝継手内外側のリングを上段で屈曲遊動、下段では伸展位で固定できる構造
【価格】約1~3万
【効果】立位・歩行動作時の膝折れ防止
長下肢装具の膝継手(ダイアルロック)
【機能】膝関節伸展固定、任意にて約5°(啓愛ダイアルロック)や10~20°(AOPダイアルロック)刻みで固定、屈曲遊動
【特徴】固定ネジで膝の可動域を任意で制限し、リングを用いることで設定した角度で固定できる
【価格】約3~5万円
【効果】立位・歩行動作時の膝折れ防止
膝関節屈曲拘縮がある対象者の拘縮角度に合わせてリングロックと同じ効果が得られる
屈曲拘縮角度よりもやや伸展位に角度設定し、持続的に伸長することができる
円背がある対象者では膝関節伸展位での固定を行うと体幹前傾が増強するため膝関節を屈曲位で固定すると体幹前傾が軽減する
長下肢装具の膝継手(ステップロック)
【機能】膝関節伸展固定、9段階の角度で固定、屈曲遊動
【特徴】ラチェット機構(一方向の動きを制限する機構)で伸展方向は段階的に動かすことができるが、屈曲方向にはロックがかかる
後方のレバーを上げると屈曲遊動になる
【価格】約6万円
【効果】起立時の急な膝折れ防止、立位・歩行動作時の膝折れ防止
屈曲拘縮角度よりもやや伸展位に角度設定し、持続的に伸長することができる
長下肢装具の膝継手(3-wayジョイント)
【機能】膝関節伸展固定、屈曲位20°まで固定、屈曲遊動
【特徴】リングロックに似ており、上中下の3段式
リングを中段にすると20°まで屈曲が可能
【価格】約15000円
【効果】立位・歩行動作時の膝折れ防止
立位・歩行時の膝関節のコントロールのトレーニングが可能
カットダウンまでの一例
長下肢装具から短下肢装具に移行する間の膝継手の設定において、リングロックでは「膝継手固定」から「膝継手遊動」、そして「短下肢装具への移行」という段階を踏みますが、「膝継手固定」と「膝継手遊動」の間に中間段階が存在しません。
一方、SPEXを用いた場合は、「膝継手固定」から「膝継手一部可動(補助または固定)」を経て「膝継手遊動」、そして「短下肢装具への移行」という段階を踏むため、「膝継手固定」から「膝継手遊動」までの間に段階的な難易度設定が可能となります。
小野塚ら7)の報告では、膝固定群(リングロック・ダイアルロック)とSPEX群を比較した結果、SPEX群の方が長下肢装具から短下肢装具へカットダウンする割合が高いことが示されました。これは、セラピストが対象者の身体機能に合わせて課題難易度を調整できた可能性を示唆しています。ただし、膝固定のダイアルロックは円背や膝関節の伸展制限に用いられるため、運動麻痺以外の要因が影響している可能性も考慮する必要があります。
今回は膝継手を用いた課題難易度設定について解説しました。しかし、膝継手以外にも、セミ長下肢装具を用いた課題難易度設定の方法もあります。セミ長下肢装具とは、大腿カフの上下が二分割にできる構造で、その上部を除去した状態です。膝継手固定から膝継手遊動への移行において、SPEXのように補助機能があるか、セミ長下肢装具のようにレバーアームの調整が可能かによって、課題難易度の段階を増やすことができます。
個人的には、足継手の組み合わせも重要だと考えています。例えば、足部が足部覆い型の場合,ゲイトソリューション足継手とSPEXを組み合わせると、長下肢装具の一時負担は約25万円となります。しかし、価格の課題となります。価格を考慮する場合、ダブルクレンザック足継手とSPEXの組み合わせでは、長下肢装具は約21万円となります。また、ゲイトソリューション足継手とリングロックの組み合わせるは約22万円となり,カットダウンまでの課題難易度を設定するためにセミ長下肢装具に変更できる設定にすることがあります。価格以外にも、対象者の身体状況や使用場所に合わせて適切な課題難易度を設定することが重要です。
まとめ
本記事では、長下肢装具の膝継手の機能と特徴について解説しました。
ポイント
・長下肢装具の膝継手を伸展固定することで、膝折れを防ぎながら立位・歩行動作練習を行うことができます。
・長下肢装具の膝継手には様々な種類があり、対象者の膝関節の状態や立位・歩行動作の状態に合わせて膝継手を選択する必要があります。
・長下肢装具から短下肢装具への移行において、膝継手の機能を活用して段階的な課題難易度を設定することが重要です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
文責: 理学療法士 小野塚雄一
参考文献
1)細田多穂:義肢装具学テキスト改訂第3版.(編集)両角昌実,横山茂樹.pp42-44.東京.南江堂,2018
2)高田治実:PT・OTビジュアルテキスト義肢・装具学.(編集)豊田輝,石垣栄司.pp254-257.東京.羊土社,2016
3)松田雅弘:脳卒中の装具のミカタ.(編集)遠藤正英.pp106-108.東京.医学書院,2021
4)公益財団法人 鉄道弘済会義肢装具サポートセンター:2024年度令和6年度版完成用部品価格表.https://x.gd/7YYrL(2025年3月26日)
5)株式会社啓愛義肢材料販売所:装具部品(下肢)2021.pp16,2021
6)村山稔:脳卒中患者の歩行練習に使用する下肢装具設定の工夫.日本義肢装具学会誌.38:216-220,2022
7)小野塚雄一,他:回復期リハビリテーション病棟の脳卒中片麻痺者における長下肢装具の膝継手の違いがカットダウンに与える因子の特徴.支援工学理学療法学会誌.3:71-78,2024