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コラム

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片麻痺者の歩行に応じた短下肢装具の足継手の選び方

<キーワード>短下肢装具、足継手の機能、バイオメカニクス

※本記事は、理学療法士の方を対象に記載したものです。掲載されている内容は、参考程度にご覧ください。

 近年、歩行練習をサポートするためのツールは、機能的な電気刺激やロボット技術の進化により多様化しています。その中で、下肢装具はロボットとは違い複雑モーターなどを有さないために扱いやすく、長年にわたり広く利用されてきました。

 本記事では、特に片麻痺者の方々に用いられることが多い短下肢装具(以下、AFO:Ankle Foot Orthosis)の足継手の機能について、バイオメカニクスの視点を交えて解説します。AFOの足継手の選択にお役立ていただけたら幸いです。

歩行中の足関節運動と筋活動を説明するために、ランチョ・ロス・アミーゴ方式の分類1)を用いて、便宜的に以下のように歩行を区分してみました(図1)。

・立脚相:荷重応答期、立脚中期、立脚終期、前遊脚期

・遊脚相

正常歩行において、歩行中の足関節運動に関わる主動作筋と筋収縮様式の組合せは次の4パターンに分類されます。

(1)荷重応答期:前脛骨筋・遠心性収縮

(2)立脚中期および立脚終期:下腿三頭筋・遠心性収縮

(3)前遊脚期:下腿三頭筋・求心性収縮

(4)遊脚相:前脛骨筋・求心性収縮

ケーデンス(1分間あたりの歩数)は年齢・性別・脚長・心理的要因などで様々ですが、正常範囲は110~130歩/分とされています。仮にケーデンス120歩/分の場合、1歩行周期時間はちょうど1秒間になります。このわずか1秒あまりの短時間で、主動作筋と筋収縮様式の4パターンが素早く切り替わっています。さらに、足関節の可動域は背屈10°~底屈15°であり、特に前遊脚期の底屈運動は、床を蹴り出すために、わずか0.1秒ほどの間に15°も動きます。これは立ち上がりや階段の昇り降りなど、日常生活で私たちが経験する他の足関節運動と比較しても、非常に速い動きです。これらの正常歩行に必要な筋収縮様式や可動性のすべてを補助できる足継手は2024年現在、存在していません。そのため、健常者がAFOを装着すると、裸足で歩くよりも歩き難くなります。AFOは主に脳卒中片麻痺者などの運動麻痺のある方で良く使用され、歩行速度の向上や歩容の改善などの科学的な効果があると言われていますが、その前提として対象者の機能に合った足継手を選択することが必要です。

図1.歩行中の足関節運動と筋活動2)

 

短下肢装具が発生する力

AFOが発生する力は、装具が変形する際に元に戻ろうとする力によるものです。例えば、靴べら型プラスティック製AFO(シューホーンAFO)を背屈方向に変形させようとした場合には、AFOは底屈方向の力(矯正モーメント)を発揮します(図2)。一方で、背屈フリー機能の足継手を有したAFOは底屈方向の力を発揮しない仕組みになっています。このように、AFOの継手の特性によって装具が発生する力が異なります。

図2.シューホーンAFOを背屈方向に変形させようとした際にAFOが発生する力

 

歩行能力別足継手の機能

歩行補助のためにAFOに必要な機能は、以下の4つに分類されます。

①ヒールロッカー注1)を補助する 「底屈制動」

②立脚中期から立脚終期にかけては、AFOの矯正力でアンクルロッカー注2)を妨げない 「背屈フリー」

③過度な背屈に対する「背屈制限」

④遊脚相での「背屈位の保持(底屈制限)」

注1)ヒールロッカーとは、踵接地後に踵を中心に足部が回転するクリティカルイベント

注2)アンクルロッカーとは、立脚中期で足関節を中心に下腿が回転するクリティカルイベント

山本3)は片麻痺患者の歩行に必要な足継手の機能について「歩行能力別足継手の機能」という考

え方(図3)を提唱しています。これは、足継手の機能を「足関節固定」、「底屈制限+背屈制限」、「底屈制限+背屈フリー」、「底屈制動+背屈フリー」の4タイプに分類する考え方で、歩行状態の変化に合わせて角度や制動力を調整する必要があることが表現されています。

図3.歩行能力別足関節の機能3)

 

装具の選定について

治療用装具の装具処方は医師の責任によって行われますが、日ごろから患者の歩行トレーニングに関わる理学療法士のアドバイスは重要です。装具処方の際には、患者個人の状態を評価し、必要とする機能を正確に把握した上で「ニーズにマッチした装具」 を検討する必要があります。

現在の臨床現場、特に積極的なトレーニングが必要な回復期リハビリテーション病棟においても、シューホーンAFOやオルトップAFOなどの継手のないプラスティック一体型AFOが半数以上の割合で処方されているのが現状です2)。これらのプラスティック一体型AFOは外観、重量、取り扱いやすさの点では優れていますが、継手の角度や制動力を調整できないという大きな欠点があります。特に身体機能が変化していくことが見込まれる患者にとっては、歩行状態の変化に合わせて角度や制動力を調整可能な継手付の下肢装具を活用する利点が大きいと筆者は考えています。

 

まとめ

片麻痺者の歩行をサポートするAFOは、足関節の働きを補助し、歩行能力の向上に役立ちます。しかし、装具の効果を最大限に引き出すためには、患者の歩行状態や身体機能に合った「足継手」を選ぶことが重要です。足継手には、足関節の動きを固定するものや、特定の方向への動きを制限するものなど、さまざまな機能があります。これらの機能を適切に組み合わせることで、より良い歩行を実現することが可能となります。

装具の選定は医師が行いますが、日々のリハビリテーションに携わる理学療法士のアドバイスも大きな役割を果たします。特に、身体機能が変化する可能性がある患者にとっては、角度や制動力を調整できる継手付きの装具が有効です。これにより、歩行状態の変化に柔軟に対応したリハビリテーションの効果が期待できます。装具の継手選びは、患者一人ひとりの状態やニーズに合わせて行うことが大切です。

 

【引用文献】

1)Gotz-Neumann K:歩き方-ヒトの歩容の生理学.観察による歩行分析(月城慶一・他訳),5-80.医学書院,2005.

2)春名弘一 他.脳卒中片麻痺者に対する下肢装具の最近の動向.理学療法 34(4),344-353(2017).

3)山本澄子:動作分析にもとづく片麻痺者用短下肢装具の開発.理学療法科学18(3),151-121(2003).

(文責:北海道科学大学 理学療法士 春名弘一)