1. HOME
  2. コラム
  3. 装具歩行において下腿が外旋してしまうのはなぜ?

コラム

Column

装具歩行において下腿が外旋してしまうのはなぜ?

〈キーワード〉 短下肢装具・下腿軸・装具軸・下腿外旋

※本記事は、理学療法士の方を対象に記載したものです。全ての方に当てはまる内容ではありませんので参考程度にお読みください。また歩行は、筋緊張の亢進・低下などアライメント以外にも影響を受けることを考慮の上、ご参照ください。

装具を装着して歩行を行った際、荷重応答期に下腿が外旋してしまう現象を経験したことはありませんか。その原因の一つとして、患者の下腿軸(以下、下腿軸)と短下肢装具の装具軸(以下、装具軸)の傾きにズレが生じていることが考えられます。

下腿軸と装具軸の傾きがズレると何が起こるのか

立脚期における下腿軸の左右の傾きを調べたところ、内側に1~2°傾いていることが多いことがわかりました。一方、作製されている装具軸は垂直位、もしくはやや外側へ傾いている傾向が見られました。これにより、下腿軸と装具軸との間に傾きの差が生じた結果、患者さんは歩行中に下腿が外方向に引っ張られるような感覚が生じます。

(参考文献)

中野克己・他:短下肢装具の前額面アライメント不良が側方不安定性・下腿の外旋を生じる理由 理学療法学Supplement,24:434,1997.

装具軸を適切に設定する方法

2つの軸の傾きを近づけるために、図のように外縁にウエッジ(赤線)を入れて歩いてもらいます。すると、下腿軸と装具軸は同じ方向に進むため歩行は安定します。ウエッジの厚みを何回か変えながら、歩行が最も安定する傾きの状態を探すことで装具軸の角度が決まります。

2つの軸がズレると、なぜ立脚期に下腿が外旋するのか

歩行中の下腿の外旋は「荷重応答期」に起こります。ここでは、踵のみが床に接地していて、足底が装具底面のどこ(①~③)を主に押しているかがカギとなります。本来、母趾近くの①に力が加わり、その結果①‘から下腿が前へ押し出される状態が最も安定しますが、2つの軸にズレが生じていると、②に圧が集中することが多く、その結果、下腿を内側から外側に押し出し力(②’)が働き、下腿の外旋が起こりやすくなります。

症例

症例紹介 備品装具と本人用装具

50歳代 男性 脳卒中左片麻痺、下肢Brunnstrome stageⅣ、T字杖と金属支柱付き短下肢装具を使用して屋内外歩行自立。左膝外反10°で、立位にて左下腿は内側に傾斜。当初は、病院の備品装具を使用していましたが、その後、装具軸を下腿軸に近づけた本人用装具を作製しました。備品装具の軸はほぼ垂直でしたが、本人用装具は下腿軸と同様に内側に傾いて作製されています。

備品装具と本人用装具との姿勢の違い

備品装具では、麻痺側立脚期に下腿の外旋と体幹の左側屈がみられますが、本人用装具ではどちらも改善がみられます。

備品装具と本人用装における足圧中心(COP:center of pressure)軌跡の違い

備品装具では、麻痺側下肢は踵にのみ荷重が集中し、COPは三角形を描いていますが、本人用装具では8の字を描き、麻痺側前足部へも荷重がかかっていることがわかります。

(参考文献)

中野克己・他:装具作製時に前額面・水平面上のアライメントを考慮する必要のある典型例. 日本義肢装具学会誌,37:164-164,2021.

まとめ

本記事では、

1.下腿軸と装具軸がズレているとなにが起きるのか

2.装具軸を適切に設定する方法とは

3.2つの軸がズレると、なぜ立脚期に下腿が外旋するのか

4.2つの軸が合っていない備品装具と合わせて作製した本人用装具では、何が違うのかを姿勢と足圧中心(COP)を用いて説明

以上より、下腿軸と装具軸の傾きがズレると、歩行時に下腿が外旋してしまう理由について説明しました。

文責 日本保健医療大学 理学療法士 中野克己