長下肢装具は本当に効果があるの?-ガイドラインとレビューで読み解く適応と限界-

キーワード:長下肢装具、エビデンス、ガイドライン
※本記事は、理学療法士の方を対象に記載したものです。
全ての方に当てはまる内容ではありませんので参考程度にお読みください。
長下肢装具は、臨床においてに重度の麻痺対して使用されることが多い一方で、その効果や適応については、現在も議論が続いています。
実際に,どのようなケースで効果があるのか、そしてどのような限界があるのかといった点は、明確になっていない部分も少なくありません。
本記事では、ガイドラインやシステマティックレビューに基づき、長下肢装具の科学的根拠を整理し、臨床における活用のあり方をご紹介します。
ガイドラインが示す長下肢装具の位置づけ
脳卒中治療ガイドライン2021¹⁾では、「脳卒中後片麻痺で膝伸展筋力もしくは股関節周囲筋筋力が十分でない患者に対して、歩行機能を訓練するために長下肢装具を使用することは妥当である」とされており、エビデンスの質は低いものの、推奨度Bとして使用が推奨されています。一方、公益社団法人日本理学療法学会連合の理学療法ガイドライン²⁾では、「長下肢装具に関する論文はスクリーニングの結果、質・量ともに不十分と判断されメタアナリシスは実施せず、介入効果は不明となった」と記載されており、介入効果は不明とされています。また、海外のANPT Clinical Practice Guidelinesを見ても、長下肢装具を用いた介入については言及がありません。
このように、国内外のガイドラインにおいては、脳卒中者に対する長下肢装具の使用について推奨しているものもあれば、明確な推奨を示していないものもあり、見解が分かれているのが現状です。
システマティックレビューで紐解く適応と効果
このようにエビデンスが確立されていない介入においては、臨床現場において長下肢装具の使用可否を判断することが難しい場面が多いと思います。こうした状況においては、“症例報告”に基づくシステマティックレビューが有用である3)とされています。
そこで筆者らは、症例報告を対象としたシステマティックレビューを実施しました。その結果、以下の4点が示されました。
1.長下肢装具を使用した介入は、すべて日本からの報告であった
2.6割は従来通り重度麻痺に使用されていたが,中等度以下の麻痺にも使用されていた(表1の赤枠)
3.急性期のみならず、生活期の脳卒中者にも使用されていた(表2の赤枠)
4.バランス機能を含む移動能力の改善が多く報告されていた(図1の赤枠)
以上より、長下肢装具を用いた介入は、従来報告されてきた重症例に限らず、より幅広い対象に対して使用されており、バランス機能を含む移動能力に一定の効果を示す可能性があることが示唆されています。
具体的には、中等度以下の麻痺を有する症例においても、歩行パターンの異常(Extension thrust pattern:ETP)や、倒立振り子モデルが十分に形成できていない場合に長下肢装具が使用されているケースがありました。
これらのことからも、中等度以下の麻痺であっても、歩行パターンの改善を目的とする場合には、長下肢装具の使用を検討する余地があると考えられます。
まとめ-臨床における長下肢装具使用の展望と課題
・長下肢装具は重度の麻痺に対して使用されることが多いものの、エビデンスの不足やガイドライン間の評価の違いから、使用判断に迷う場面も少なくありません。
・症例報告のレビューでは、バランスや移動能力の改善がみられている実態が明らかになりました。
・中等度以下の麻痺や生活期の方においても、歩行パターンの改善を目的に使用されるケースがあり、長下肢装具の可能性を従来よりも広い視点で捉え直すきっかけとなり得ます。
使用の判断基準や具体的な使い方については、依然として議論の余地が残されていますが、今後は、適応や使用のタイミングをより明確にし、個別の状況に応じて長下肢装具を適切に活用できるエビデンスの構築が求められます。
文責:函館市医師会看護・リハビリテーション学院 理学療法士 平塚健太