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「装具が壊れたとき、誰に相談すればいい? ―装具手帳と二次元コードで、情報の“途切れ”を防ぐ―

〈キーワード〉装具難民、装具手帳、フォローアップ

※本記事は、下肢装具ユーザーの支援に携わる、初学者の理学療法士・作業療法士の方を対象に記載したものです。

すべての患者・利用者に一律に適用できるものではありませんので、参考程度にお読みください。

 

はじめに

退院後しばらくしてから、「装具のベルトが切れた」「装具が壊れた」と相談を受けたのに、いつ・どこで作った下肢装具なのか分からず、対応に困った経験はないでしょうか。急性期や回復期の現場では、装具は作製直後で情報もそろっていて、困る場面は少ないかもしれません。しかし、少しだけ想像をしてみましょう。入院中に装具作製に関わった患者を、数年後に訪問リハビリテーションで担当したらどうでしょうか。

あなたは装具を手に取り、状態を確認します。ベルトの劣化、フィッティング感…。これは再作製が必要かもしれないと感じました。ところが次の瞬間、頭の中が固まります。いつ作った装具なのか、どこの義肢装具製作所で作製したのか。下肢装具は入院中にも身体機能および能力を高めるための支援機器として活用されますがリハビリテーションサマリー(退院時に次の施設へ渡す情報提供書)には装具の細かい情報は記載されていないことが多く、情報がありません。

脳卒中のリハビリテーションでは、発症後早期からの積極的なリハビリテーションが推奨されており、その中に「装具を用いた早期歩行訓練」が含まれています1)。下肢装具は入院中に身体機能および能力を高めるための支援機器として活用されますが、装具が本来の力を発揮するであろう「作製後」まで見据えて、情報と支援を次につなぐ仕組みに目を向けることが、患者・利用者の生活を守ることにつながる可能性があります。

このコラムでは、下肢装具を「作る」だけで終わらせず、次の支援者へ、次の生活場面へつなげるための考え方と工夫をご紹介します。

 

「装具難民」とは?  本コラムで扱う焦点(装具処方後のフォローアップ)

装具難民とは、①適切な装具療法が行われていない、②装具処方時、患者に装具そのものの情報が伝わっていない、③装具処方後の定期的なフォローアップがなされていない、④かかわるスタッフの知識不足など、治療・情報・システム・教育の問題が重なった状態といわれています2

本コラムでは、「装具処方後の定期的なフォローアップがなされていない」点に焦点をあて、考えていきましょう。

 

なぜ、装具難民が生まれてしまうのだろう?

患者・利用者の退院後の生活は長く、その間に関わる支援者も変化していきます。たとえば、積極的な治療を終えたあとに通院先が病院から自宅近くのクリニックへ切り替わったり、リハビリテーションが医療保険から介護保険へ移っていったりすることは、日常的に起こります。支援の場所と人が変わるほど、「装具の情報を次へ引き継ぐ」ことの重要性は高まりますが、現場ではそこがうまく機能しないことがあります。

実際に、千葉県柏市内の施設を対象に行われた質問紙調査では、装具を作製した後の保守点検体制が不十分だと評価された施設が94%に上りました3。また、装具に不具合が生じた際の問い合わせ先について、患者へ事前に十分な周知ができていないと判断された施設は87%でした3。さらに、他施設への装具情報提供が不十分とされた施設は100%に達しており3、装具の管理や情報共有の仕組みが弱い現状がうかがえます。

このように、後方施設への情報提供が不十分な状態が繰り返されると、「いつ」「どこで」「どのように」作った装具なのかが分からないまま、相談を受ける場面が生まれてしまいます。その結果、必要な対応に迷いが生じやすくなり、対応が難しくなったり、調整や修理につなげるまでに時間がかかったりしてしまうのです。

 

表の解説

以下は、装具作製側施設に対して実施した質問に対する回答内容です。

1)-1、装具を作製した後、破損の有無を定期的に確認する機会が設けられているか、または確認を促す連絡が行われているかを質問した際の回答です。

1)-2、装具作製後に破損が生じた場合や、ベルトの接触不良などの不具合が発生した場合に、どこへ問い合わせるべきかを事前に周知しているかを質問した際の回答です。

2)装具作製後、他院や通所リハビリテーション等の利用を目的として他施設へ移行する患者・利用者がいる場合に、移行先(後方施設)へ装具作製時の情報を提供しているかを質問した際の回答です。

 

下肢装具ユーザーの装具再作製をより円滑に支援するためのツールにはどんなものがあるの?

ここで言う「ツール」は、高価な機器のことではありません。情報を残し、誰でも同じ入口から辿れるようにするための“仕組み”ととらえてください。ポイントは、患者・利用者が持ち歩けて、多職種が見て分かり、次の担当者が迷わない形で残すものであることだと考えています。

紙で残す:装具手帳という“装具版の母子手帳・お薬手帳”

紙版の装具手帳は、装具の基本情報(装具作製年月日や仕様など)と相談先をまとめ、患者・利用者本人や家族、ケアマネジャー、医療・介護スタッフが共有するための冊子です。

装具は見た目だけでは「いつ」「どこで」「どのように」作ったのかが分かりません。そのため、装具の情報を一つの場所に集めておくこと自体が、支援の質を保つうえで大きな意味を持つと考えています。

装具手帳が役立つ場面は、修理や調整が必要になったときだけではありません。転居や通院先の変更、介護保険への移行などで支援者が入れ替わるタイミングでも、装具手帳があることで「まず何を確認し、どこに連絡するか」という入口が明確になります。たとえば、作製からの経過年数が分かれば、劣化や適合変化の可能性を見立てやすくなりますし、作製先が分かれば再作製の流れを確認することもできます。初学者の理学療法士にとっても、装具を前にして迷いがちな場面で、判断のよりどころになりやすいのが装具手帳の強みです。

一方で、紙であるがゆえの弱点もあります。破損や紛失が起こりやすく、受診時や外出時に持参し忘れてしまうことも少なくありません。また、内容を更新するには書き込みや差し替えが必要で、情報が古いままになってしまう可能性もあります。だからこそ、紙版を「万能な答え」として捉えるのではなく、確実に残したい情報を絞り込み、使い続けられる形に整える視点が大切だと考えます。

 

スマートフォンで引き出す:デジタル装具手帳および装具への二次元コード貼付

現在、スマートフォン(以下、スマホ)は多くの方が持っています。外出時も手元に置くことが多いため、紙の装具手帳で起こりやすい「持参し忘れ」を減らせる可能性があります。紙では扱いにくい装具の写真や歩行の様子の記録などを残せる、デジタル装具手帳アプリもあります。ただし、スマホ操作が苦手な高齢者などにとっては、入力や閲覧そのものが負担になり、使い続けるのが難しい場面も想定されます。

そこで、もう一つの選択肢として、装具に二次元コードを貼り、スマホで情報を呼び出せるようにする方法があります。二次元コードから、装具手帳の電子版や、相談先と準備しておきたい情報をまとめたページへつなげるイメージです。これなら、患者・利用者が「どこに連絡すればよいか」をその場で思い出せなくても、装具そのものが案内板の役割を果たします。

ここで目指したいのは、「装具」あるいは「スマホ」を見れば次の一手を検討しやすい環境を整え、情報伝達が途切れにくい状態をつくることだと考えています。

有限会社テックワークス様より承諾を得た上で転載

 

 

作ったら作りっぱなしは、今日を境にやめましょう

下肢装具は完成した瞬間がゴールではなく、そこから先の生活で使われ続けます。しかし現実には、保守点検や問い合わせ先の周知、他施設との情報共有が不十分なことが多いのが現状です。

紙版・デジタル版を問わず装具手帳は、装具の情報を患者・家族、多職種へ渡す基盤になります。そこに二次元コード貼付を組み合わせると、「装具そのものが相談の入口」になり、情報の途切れをさらに減らせると考えています。

作ったら作りっぱなしは、今日を境にやめましょう!

 

参考文献

  • 日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン[追補2017]委員会. 脳卒中治療ガイドライン2015[追補2017]. 277–228, 協和企画, 東京 (2017).
  • 勝谷将史 他. 義肢装具士白書 103–108, 日本義肢装具士協会 (2017).
  • 金子達哉. 装具難民を減らすためには装具手帳の導入が望ましい可能性がある-千葉県柏市における質問紙調査-. 支援工学理学療法学会誌 2, 30–37 (2022).

文責:柏たなか病院 理学療法士 金子 達哉