膝が反ってしまう歩行、装具で改善できる?~CB-KAFOの活用~

<キーワード>短下肢装具、足継手の機能、バイオメカニクス
※本記事は、すべての方に適用される内容ではなく、理学療法士向けの情報を含みます。参考程度にお読みください。
脳卒中後のリハビリテーションでは、歩行の安定性を向上させるために「装具」が使用されることがあります。その中でも CB-KAFO(Center Bridge-Knee Ankle Foot Orthosis) は、膝と足首のサポートを同時に行い、歩行時に 膝関節が後方へ過剰に伸びてしまう(反張膝) ことを改善するために役立つ装具です。
本記事では、CB-KAFOの特徴やメリット、装具を選ぶ際のポイントについて解説し、実際の使用例についても紹介します。
脳卒中後に起こりやすい症状の一つに、膝や足首の不安定性があります。「膝が突然ガクッと崩れる」「足が引っかかりやすい」といった症状で悩まれる方も少なくありません。こうした状態では、日常生活での歩行が不安定になり、転倒のリスクが高まることもあります。
そのため、下肢装具の使用目的は
・立脚期の安定を得ること
・つま先を床から離れやすくすること
・正常歩行パターンへ近づけること
・変形の予防
とされています。
Extension thrust patternとはどのような歩き方?
歩行において、Extension thrust patternとは下肢を振り出す際に麻痺側立脚期で体を支える際に、膝関節が後方へ過剰に伸びて(反って)しまう歩行(反張膝)のことを指します。
この歩行パターンは 脳卒中片麻痺者の40~68%に生じる と報告されており、放置すると 膝関節の痛みや変形を助長する 可能性があります。
固有受容感覚練習や下肢装具の使用によって短期的な改善は見られるものの、中・長期的な改善は難しいとされています。
反張膝
左:反張膝(膝関節が後方へ過剰に伸びて(反って)しまう歩行) 右:正常歩行時の下肢(膝)
CB-KAFOの特徴とは?
CB-KAFOは、佐喜眞義肢社製の多軸膝遊動式膝継手(Sakima CB03A-01)と短下肢装具を組み合わせた下肢装具 です。
従来の装具と比較して、以下のようなメリットがあります。
・装着時のズレが生じにくい
・固定用ベルト(ベルクロ)の本数が少ない
・股関節まで高さのある装具とは異なり、トイレ時に外す必要がない
また、Sakima CB03A-01は 軽量かつ頑丈な素材を使用 しており、中央ブリッジ構造によって 膝の後方過伸展を制御しつつ安定性を確保 することが可能です。
株式会社COLABOホームページより許可を得て引用
実際、筆者が多くの患者さんを担当させていただく中で、膝関節が後方へ過剰に伸びて(反って)しまう歩行を行う方で、足関節が底屈(足首を下げる動き)拘縮(固まってしまっている方)に関しては、短下肢装具での踵補高(装具の踵部分に高さを増すこと)にて歩行速度や歩行距離が改善した患者さんがいらっしゃいましたが、足関節に関節の動く範囲に大きな制限がない方で膝関節が後方へ過剰に伸びて(反って)しまう歩行へはCB-KAFOは歩行能力改善に対して有用な選択肢の1つになると思います。
踵補高 イメージ
CB-KAFOを活用した歩行の改善例
脳卒中発症から20年以上経過した2名の方にCB-KAFOを装着して生活をしていただいたところ、
・装着後すぐに反張膝が改善
・歩行速度の向上を確認
・装具の装着はすぐに習得可能
・3年後まで歩行速度の改善が持続
という結果が得られました。
まとめ
CB-KAFOは、 脳卒中後の歩行時に膝関節が後方に反ってしまう方にとって、有用な装具のひとつ です。
1.膝関節が後方に反る歩行(反張膝)は、脳卒中片麻痺者に多く見られ、膝の変形や痛みを助長する。
2.CB-KAFOは、膝と足首のサポートを同時に行い、歩行の安定性を向上させる装具である。
3.装着時のズレが少なく、日常生活に適した設計になっている。
4.実際の症例では、CB-KAFO装着により反張膝の改善が見られ、歩行速度も向上した。
この装具を活用したい場合は、義肢装具士やリハビリ担当の理学療法士と相談することをおすすめします。CB-KAFOは、脳卒中後の歩行時に膝関節が後方に反ってしまうことで悩む方にとって、有用な装具である可能性があります。
引用文献
1)大川嗣雄. 日本義肢装具研究会(編).脳卒中片麻痺患者の下肢装具.49-60,医歯薬出版,1981
2)De Quervain.Gait pattern in the early recovery period after stroke.J Bone Joint Surg. Am. 78,1506-1514(1966).
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4)Marieke, GM. et al.Treatment of knee hyperextension in post-stroke gait. A systematic review.Gait Posture.91,137-148(2022).
5)株式会社COLABOホームページ.URL:https://colabo-po.com/docs/2021100100382/ (2025年1月11日参照)
6)栗田 慎也 他. 生活期脳卒中片麻痺に尖足拘縮を合併した患者に踵補高付短下肢装具を作製し歩行能力が改善した1症例の長期報告, 義装会誌, 36 ,4, 289-292(2020)
7)栗田 慎也 他. Extension thrust patternに対する多軸膝遊動式膝継手付き長下肢装具の開発とその使用経験. 義装会誌.39, 4,320-325(2023)
8)栗田慎也 他.Extension thrust patternを呈する脳卒中片麻痺患者の下肢装具変更後4年間の歩行能力の変化.57,6,735-539(2023)
文責:東京都立病院機構 東京都立大久保病院 理学療法士 栗田慎也