長下肢装具についてみんなはどう感じている? 経験年数別とブレースクリニックの有無による課題の検討―多施設共同研究―
キーワード 長下肢装具、回復期リハビリテーション病棟、多施設共同研究
※本記事は、理学療法士向けの記事となっております。すべての方に当てはまる訳ではありませんので、参考程度にご使用ください。
長下肢装具(KAFO:Knee-Ankle-Foot Orthosis)は脳卒中理学療法ガイドライン1)において、条件付きではあるが推奨されており、臨床上使用することは多いです。しかし、使用や作製に難しさがあり、卒前・卒後教育は不十分とされています2)。また、実際に装具を作製する際に相談する機会として、ブレースクリニック(BC:Brace Clinic)があります。義肢装具士や医師、理学療法士などが集まって患者さんの装具の適合などを評価・検討する場のことです。これらのことから、経験年数やBCの有無で感じている課題が変わってくるのではないか?という点が本コラムの着眼点です。
今回は、平成医療福祉グループ内の回復期リハビリテーション病棟(回リハ病棟)に絞り、経験年数別とBCの有無に分けて、多施設18病院の理学療法士を対象に、KAFOに対する課題を自由記載のアンケートにて調査しました。
本コラムでは、その結果について述べていきます。今後の卒後教育や院内システムの構築の一助になれば幸いです。
平成医療福祉グループの紹介
今回の研究対象となる平成医療福祉グループは、全国に100を超える病院・介護施設・福祉施設を運営しています。「じぶんを生きる を みんなのものに。」をミッションに掲げ、急性期の治療を終えた患者さんを支える「ケアの専門家」として地域医療を支えています。病気や障がいがあっても、誰もが自分らしく豊かに暮らせるインクルーシブな社会の実現を目指し、質の高い医療と介護を一体的に提供しているのが特徴です。
調査方法
【対象】
当グループの回リハ病棟を有する18病院、回リハ病棟所属の理学療法士の558名
【アンケート内容】
「長下肢装具関連で過去に悩んだ経験、もしくは現在悩んでいることをご回答下さい」 (自由記述回答)
【解析方法】
このアンケート結果を下記の2パターンで解析しました。
経験年数別:4グループ(1~2年目: 153名,3~5年目: 98名,6~9年目: 88名 ,10年以上: 44名)
BCの有無別:2グループ(有:117名,無:266名)
それぞれに対し、テキストマイニングで頻出単語を抽出し、BCの有無別では否定語の比較も実施しました。
テキストマイニングとは
テキストマイニングとは、大量の文章データ(テキスト)を自然言語処理などの技術で分析し、有益な情報や傾向を発掘(マイニング)する手法です。今回のようなアンケートの自由記述、SNSの投稿、顧客の問い合わせなどの「文字データ」を単語に分解し、出現頻度や単語同士のつながりを分析します。これにより、人間の目では気づけない回答者の本音やトレンド、課題などを視覚的に捉えられる解析方法です。
結果
回答者属性
【回答人数】 383名(68%)
【経験年数】 1~30年目
【中央値】 4.0(2ー7)年
経験年数
BCの有無
考察
経験年数
【1~2年目:技術・経験の不足】
KAFOでの歩行介助方法に難しさを感じており、若手ということもあって経験や技術が不足していると考えられます。
【3~5年目:疑問の質の変化】
介助の難しさは継続しつつも、KAFOの作製や短下肢装具(AFO)へのカットダウンのタイミングの疑問が増えていました。経験や研鑽を積んだことで、疑問がより高度な臨床判断になったと考えられます。
【6~9年目:取捨選択と適切な判断】
作製やAFOへのカットダウンのタイミングの課題が抽出されました。加えて、若手と比べて経験や技術に関する課題は減っていました。とりあえずKAFOを使用するのではなく、ハンドリング技術や適切な取捨選択ができるようになり、使用頻度が減ったのかもしれません。
【10年目以上:環境・組織課題への視点】
KAFO作製の経験はあるが、「使用機会の少なさ」や「備品不足」といった環境面への意見が増えていました。自身の課題だけではなく、自施設の課題などが見えてくるためではないかと考えられます。
BCの有無
【あり】
BCがあるほうが「悩む」ことが多く、記述的にやや否定語が多いという結果となりました。BCは単に装具の相談をするだけでなく、スタッフの考える機会を増やし、理解を深める可能性があることが示唆されました。
【なし】
BCがないほうが、否定語の出現比率が少ないという結果でした。BCを行っていない施設は、装具がそもそも「少なく」、使用する機会も「少ない」可能性があると考えられます。
まとめ
・若手はKAFOに対する知識や技術の不足を感じ、経験年数を追うごとに、より高度な疑問や環境面への危惧に移行しているようです。
・装具の相談体制はスタッフの考える機会を増やし、装具を使用する環境を整えるきっかけになり得ると示唆されました。
・実際にKAFOを使用した研修機会の提供や、経験年数別のカリキュラムの提供などに繋げていきたいと考えております。
文責:
平成医療福祉グループ リハビリテーション部 PTチーム 多施設共同研究班
医療法人平成博愛会 世田谷記念病院 リハビリテーション科 理学療法士 齋藤大希
参考文献:
1)日本神経理学療法学会.理学療法ガイドライン第2版.第1章 脳卒中理学療法ガイドライン.58ー60,2021.
2)日本支援工学理学療法学会.職能に資するエビデンス研究 福祉用具・義肢・装具支援に関する啓発と実態調査~装具編~ 調査対象 会員 報告書.102,2018.



