アームスリングの選び方と活用方法
〈キーワード〉 アームスリング、肘屈曲タイプ、肘伸展タイプ
※本記事は、理学療法士向けの記事となっております。すべての方に当てはまる訳ではありませんので、参考程度にご使用ください。
脳卒中後の片麻痺は、多くの方にとって日常生活に大きな影響を与える後遺症の一つです。麻痺側の腕や手は動きにくくなり、様々な困難が生じます。その中で、医療現場やリハビリテーションの場面でよく用いられるのが「アームスリング」です。今回は、脳卒中片麻痺者におけるアームスリングの役割と、使用する上での注意点について解説します。
アームスリングの主な役割
脳卒中片麻痺者にとって、アームスリングの目的は3つです。それぞれについて説明します。
1.肩関節の亜脱臼予防
麻痺側の肩甲上腕関節の亜脱臼は、運動麻痺によって肩甲骨の下方回旋、回旋筋腱板を形成する筋の弛緩が起こり、日常生活のなかで肩関節の靱帯、関節包などが損傷することにより生じます1)。亜脱臼とは、関節包に損傷がない状態で関節面がずれていることを指し、臨床的には「一横指以上のずれ」と表現されることもあります。定義として、田中ら2)は「肩峰骨頭間距離(AHI:Acromiohumeral interval)が13mmを超えるもの」としています。アームスリングは、腕を適切な位置に保持することで、この亜脱臼を予防する効果が期待できます。亜脱臼は疼痛や関節可動域制限の原因となるため、その予防は非常に重要です。 
2.運動麻痺
筋緊張が低下している場合、寝返りや起き上がりなどの際に上肢を背側に置き忘れ、靱帯、関節包などに損傷を与え、肩関節に疼痛が生じることがあります1)。さらに、上肢が不安定な状態で歩行を行うと、上肢が振り子様に不用意に動き、関節や周囲組織を損傷するリスクが高まります。アームスリングで上肢を支えることで、これらの二次的な合併症の予防や疼痛を軽減する効果が期待できます。
3.安静保持
脳卒中発症直後(急性期)や肩手症候群などの炎症が強い時期など、麻痺側の上肢を安静に保つ必要がある場合に用いられます。
アームスリングの種類と選択
アームスリングには様々な種類があり、脳卒中片麻痺者の状態や目的に合わせて選択されます。代表的なものとしては、以下となります。
1.肘屈曲タイプスリング1,3)
肩関節内旋位、肘関節屈曲位にして、上腕骨を直上に引き上げ、固定します。前腕まで覆うため上肢の重量を軽減しやすく、前腕が体幹の前に保持されるため上肢の保護にも適しています。しかし、肩甲骨外転、肩関節内旋、肘関節屈曲の姿勢で保持されるため肩関節や肘関節の拘縮が生じる可能性があります。
2.肘伸展タイプスリング1)
前腕や上腕のカフで牽引し、良姿位での保持が可能です。上肢は下垂となるため、外見がよいです。しかし、カフに強い緊縛を必要とするため、血行障害を引き起こす可能性や上肢の位置によって牽引方向が安定しないことがあります。さらに、患者さん本人での装着は肘屈曲タイプスリングに比べて難しいです。
3.三角巾
三角巾は入手しやすいという長所はあるものの、装着がしづらく装着者によって整復力に差が生じるため、正しい装着方法を知る必要があります。
4.ループ式アームスリング
ループ式アームスリングは、前腕部を通して頸部に引っかけ、さらに前腕部に通すという、比較的簡便な構造となっています。デイサービス利用中の高齢者14名を対象(除外基準:認知症、重度の高次脳機能障害、重度の感覚障害、重度のパーキンソン病、歩行動作に支障をきたす脊椎および下肢の整形外科的疾患を有する者)とした報告4)では、全員がループ式アームスリングを自ら装着することができ、平均所要時間は42.13秒でした。臨床経験上においても、片麻痺者が自力で装着しやすい印象があります。通常の三角巾は自力での装着が難しいため、ループ式アームスリングの方がより簡便であるといえます。
さらに、ループ式アームスリングはタオルなどを用いて、以下の①~⑤の手順で手作りすることも可能です。この際、手縫いに比べてミシンなどを使用して縫製することで強度が増し、壊れにくくなります。ただし、既製品ではないため、手作りの場合は強度に課題が生じる可能性があります。
5.アームスリングの選択について
太田ら5)によれば、肘屈曲タイプスリングと肘伸展タイプスリングは、非装着時と比較して、10m歩行速度、Timed Up and Goテスト、開眼・閉眼時の重心総軌跡長に有意な差は認められなかったと報告されています。一方、主観的な歩行のしやすさをVAS(Visual Analog Scale)で評価した結果、非装着時(4.9±1.6cm)と比較して、肘屈曲タイプスリング(6.5±1.6cm,p=0.021)と肘伸展タイプスリング(7.2±1.7cm,p=0.012)は有意に高いVAS値を示し、主観的に歩行がしやすかったとも報告されています。これらの結果は、Yavuzerら6)の報告において、非装着群と比較して装着群では麻痺側への体幹傾斜が改善するとされており、上肢の重量負荷が軽減されることで体幹傾斜も改善し、歩行のしやすさにつながった可能性があります。
そのため、獲得したい動作や疼痛、運動麻痺などの阻害要因を踏まえ、脳卒中片麻痺者の状態を評価した上で、適切なアームスリングの種類を選択することが重要です。
アームスリング使用上の注意点
アームスリングは適切な使用方法を守ることが重要です。誤った使用方法は、かえって悪影響を及ぼす可能性があります。
1.適切な装着
スリングが緩すぎると十分な支持力が得られず、逆にきつすぎると血行不良や神経圧迫のリスクがあります。正しい装着方法を習得しましょう。
2.装着時間
肘屈曲タイプスリングや三角巾、ループ式アームスリングを長時間装着し続けると、肩甲骨外転、肩関節内旋、肘関節屈曲の姿勢で保持されるため関節拘縮が生じやすいです1)。使用用途を明確にし、装着時間を検討するようにしましょう。
3.皮膚の観察
スリングと皮膚が接触する部分は、摩擦や圧迫によって皮膚トラブルが起こりやすい場所です。特に肘伸展タイプスリングは、血行障害を引き起こす可能性があります1)。使用前後で皮膚の状態を観察するようにしましょう。
アームスリングからの卒業
最終的には、アームスリングを使用しなくても麻痺側の上肢が安定し、日常生活動作が行えるようになることが目標です。そのためには、早期からの適切なリハビリテーションが重要となります。私見になりますが、リハビリテーションの経過の中で、亜脱臼(AHI)や疼痛の改善,上肢の随意運動機能や体幹傾斜のアライメント異常の改善に合わせて、段階的にアームスリングの使用時間を減らしていくことを目指しましょう。
まとめ
本記事では、アームスリングの選び方と活用方法について解説しました。アームスリングは、脳卒中片麻痺者の肩関節の保護や疼痛軽減に有効な装具です。しかし、その効果を最大限に引き出し、合併症を防ぐためには、正しい知識と使用方法が不可欠です。リハビリテーションと並行して、より良い日常生活を送れるように取り組んでいきましょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
参考文献
1)遠藤正英.脳卒中片麻痺の装具.廣滋恵一・遠藤正英(編).理学療法学テキスト義肢装具学.pp176-180,メジカルビュー社,2023
2)田中正一.脳卒中片麻痺患者の肩関節亜脱臼一X線評価と姿勢の及ぼす影響について一.リハビリテーション医学.26(3),49–152(1989).
3)畑迫茂樹・村山忠洋.上肢装具.細田多穂(監修).義肢装具学テキスト.改訂第3版.pp92–93,南江堂,2019
4)Shiori K, Akiyoshi T. et al.Effect of arm swaying from wearing a self-applied arm sling with a loop on walking and other mobility skills.Journal of Physical Therapy Science.32(10),632-636(2020).
5)太田哲生,山田雅司 他.片麻痺患者における上肢懸垂用肩関節装具Omo Neurexaが立位および歩行能力に与える影響.石川県作業療法学術雑誌.25(1),20-24(2017).
6)Yavuzer G, Ergin S. Effect of arm sling on gait patterns in patient with hemiplegia. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation. 83, 960–963(2002).
文責: 理学療法士 小野塚雄一

